艶恋味。

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それなのに彼は、玉森さんの方を振り返り




「引っ越したばっかだと色々電気系統で困ることもあると思うんでいつでも連絡ください。
あ、俺の連絡先はA先生に聞いてもらえれば」

「え？！」




営業スマイル満々にそう言った。

俺の連絡先は私に聞いてもらえれば……？！？！
なにそれ、どういうこと……っ？！




「あー……、でも毎日来られても困るんで大丈夫かな」

「え？」

「昨日も来てましたよね？
この車、Aさん家の前に止まってたから」




電気屋さんと書かれた車を指さしながら
ニコニコと平然とそう話してるけど
私は冷や汗がダラダラだった。

昨日も来てたことがバレてるし……っ、




「と、とっても丁寧な電気屋さんなんです！ね！！
じゃあまた玉森さん、明日！！」




そして今度こそ無理やり宏光さんを押しながら
バタンと玄関の扉を閉めた。

はぁはぁ、と走ってもないのに息切れが止まんなくて
キッ！と宏光さんを睨みつけた。




「もうっ、なんであんな変なこと言うんですか…？！」

「変なことって？」

「私に連絡先聞け、とかっ
なんでそんなわざわざ意味深なこと」

「別に？良くね？」

「良くない…っ！」




よりによってこれから園に関わる人に
宏光さんとの関係を知られてしまったら終わり。

っていうかもうなんか、バレてるんじゃないかなって雰囲気すらあったし……。




「もう…どうしよう…」



頭を抱えてペタンと玄関の縁に座ると
そこに目線を合わせるようにしてしゃがみこんでくる。




「あの玉森って奴の家に行ったの？」

「仕事の話をしなきゃだったから…」

「ふーん。
なんかやだったなー、先生のこと取られたみたいで」

「……なんですかそれ、
別に私は宏光さんのものじゃないんですけど」

「はは、そうだな」





ここまでの状況になっても全く動じないんだ。

私が色々と深く考えすぎなのか
彼が楽観的すぎるのか。

だからこそしんどくなればなるほど
このペースに巻き込まれれば楽になる…んだと思う。




「ちょっと時間ある？」

「え？」

「車乗って、行こ」




でも肝心なとこはふわっ、と優しく頬に触れてきて
当ててくるとこ、ずるい。






「……ちょっと待ってて、荷物」

「待てない」




荷物ごと手を引かれ
再び玄関を出ると、もう玉森さんはいなかった。

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