艶恋味。

１６ ページ16

.

「じゃあ明日、園の方まで来てくださいね」

「はーい、迷ったら連絡するね」



ケーキを食べ終えるともう結構な時間なことに気付き
母が待ってるかも、と慌てて彼の部屋を後にした。

一分もかからずに着いてしまう距離だというのに
わざわざ玄関前にまで出てきて見送ってくれた優しさ。

出来た子だなぁ…なんてオバサンじみた思考でしみじみしながら自分の家のドアを開けようとすると




「あ、いた」



家の前に一台の車が止まって
運転席の窓からそう声をかけてきたのは
まさかの宏光さん。




「え？！」



なんでまたここに……？！

驚く私とは裏腹にそのまま車を降りてくると
私の目の前まであっという間にやってきた。




「今日は母ちゃん、大丈夫そ？」

「あ、うん…はい、」

「たまたま帰り道通ったからさ、一応」




そんなこと心配してくれてありがとうって気持ちと
家までこうも頻繁に来られると周りの目が気になるよって気持ちと。




「すみません、ありがどうござ……、」



と、ここまで言いかけて
宏光さん越しに玉森さんの姿が見えたから言葉を止めた。




「Aさん、携帯忘れてるよ〜」



って。

携帯片手に小走りできた彼は
無邪気に私に差し出してくると、宏光さんを見てキョトンとしてる。

こ、これはちょっとやば……っ。




「あ、ごめんね忘れてたっ、ありがとう！
こ、こちらは！うちの園の子供の親御さんでね！電気屋さんしてるの！
ちょっとうちの冷蔵庫の調子がいまいちよくなくて見てもらっててっ」

「ふーん、そっか」



聞かれてもないのに詳しく説明しすぎて
なんだか逆に怪しまれちゃってる悪循環に更に気が動転する。

これから玉森さんには園のカメラマンになってもらうのに
宏光さんとの関係を怪しまれたりしたら……っ




「だれ？」




そしてそんな空気を察することもない宏光さんが
なぜか威圧感たっぷりにそう言い放った。




「あの…、隣に越してきた玉森さんで
今度からうちの園でカメラマンしてもらうことになった…方、ですっ」

「へぇ〜」




なんで私だけこんなに焦ってんのって状況に
一刻も早く切り上げたくて
点検お願いします！なんて謎の言葉と共に
宏光さんを家の中へと入れようと背中を押した。

１７→←１５

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す