はちみつ色の日々 ２

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「か、帰るっ」




掴まれた手を解こうとするのに
それを簡単には離してくれなくて
心拍数だけがどんどん上がってく。





「もうちょいいてよ、こっち来て」


「なんで……っ、」





思い出した。

宏光は酔うと寂しくなっちゃうタイプで
一人で家で飲んでても、しょっちゅうテレビ電話をかけてきてた。

仕方なく隣に小さく腰掛けると
なぜかじっと見つめられる。





「やめてそれ……、」


「なんでよ、いいじゃーん」




距離が近いし、無駄な色気をここで放たないでほしいし
宏光の視線から逃れるように反対をむくけど
それを許してくれるわけもない彼は





「こっち」





って、私の頬を柔らかく両手で包み込むようにして
無理やりに真正面に向かい合わせられた。





「ちょ……、酔いすぎだって」


「水飲んだら酒抜けた」


「そんなわけっ…………、



と、ここまで言いかけて息を飲んだ。

もともと近かった距離が更に近付いて
視線が私の唇に降りたのが分かったから。

長年付き合ってきたからこそ分かる
これはキスの前の宏光の癖みたいなもの。






「キスしていい？」






甘ったるい声でそう囁かれれば
私はそれを断る術を知らなかった。

全身が熱くなって、蕩ける感覚が一気に蘇る…………、






「………っ、だ、ダメだって……っ！」





僅かな理性を振り絞って目の前の胸を押し返したのに
当の本人はケロッとしてる。





「なんで？」


「なんでって……、
もう付き合ってないんだよ？私たち」


「そんな肩書き必要？」





ゾクッとしてしまった。

このままじゃ完全に飲み込まれる……。





「もう……っ、ばかっ！！」





さっきよりも強くドンっ！と力任せに押し返せば
バランスを崩した宏光が私から離れた。

その隙に自分の鞄を抱き抱えて
逃げるようにその場を後にした。






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バタン！と自分の部屋の扉を勢いよく閉めてすぐに鍵をかけて
そのまま玄関で崩れ落ちる。





「ばか……、ばかばかばかっ！！」




隣に聞こえてもいいや！くらいの覚悟でそう叫ぶと
ポロポロと涙が零れてくる。

宏光への未練が溢れて苦しくなるからこそ
こんな形でそうなりたくなんてなかった。

ちゃんと………、ちゃんとした形で
甘い雰囲気になりたかったんだよ……。

宏光は何も分かってない。






宏光の、ばか。

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