はちみつ色の日々

9 ページ34

.


「え？ひろ？」




家に帰っても何もする気が起きなくて
ご飯も食べずにボーっとしてたら、いきなりなんの連絡もなしに現れた。




「どうしたの？
うちに来るなんて珍しい」


「うん、たまにはな」




入ってもいい？ってもう靴を脱いでるから
頷くしかなくて、そのまま招き入れた。

うちにわざわざ来るなんて何ごとだろう……、と
少しドキドキしながら。




「ごめん、ご飯とかなにもないし
冷蔵庫もなにも、」

「平気平気。
それより少し話していい？」




ドカッとソファに腰かけて
ん、って隣をポンポンしてくるから
これは座れってことなのかな……。

話ってなんだろ。
さっきのことでモヤモヤしてただけに
変な緊張感が走る。





「さっきさ、あやねに聞いた」


「あやね？」


「さっき書道教室で女の子に会ったろ？
あの子あやねってんだけど、新しいお姉さんいてー指輪してなかったーって言ってたからさ」


「………そっ、か」





それを聞いて私が様子おかしく帰ったってことも
もうひろにはバレバレなわけね。





「お前さ、鈍いように見えて変なとこ鋭いし
色々勘づいたんじゃねぇかなって思って」


「…………、」




変だな。

隣に座ってるはずなのに
なんだかひろがすごく遠くに感じる気がする。





「………多分、Aが思ってること正解。」





いい意味でも悪い意味でも
私たちは長い間一緒にいた。

だからこういう時分かっちゃうのかも。

言葉にしなくても
辛かったことや、感じてることが。






「それは……、
どう私は声をかけたらいいのかな……」





ひろが辛かったのは分かるけど
あっちにはあっちの旦那さんがいて
二人で道徳に背いたことをしてたわけで。

辛かったね、って安易に言葉をかけるのも違う気がして。






「ふっ、どうもこうも別にもう終わったことだから」


「終わったことなのかもしれないけど
ひろはまだ終わってないように見えるよ？」


「んなこと、」

「ある。私はわかる。」





無意識に強く握りしめてた自分の掌。

ひろを真っ直ぐ見据えると
それに応えてくれるように、視線を合わせてくれた。





.





「っはぁ〜………、だな。そうだな。」




ごまかせないと踏んだのか
頭を抱えて苦笑したかと思うと
次に顔を上げたひろの顔つきは
なにか覚悟を決めたような表情だったから、ぞくっとしてしまった。

10→←8

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す