泣き顔マニア

１８ ページ18

.


「昨日さ、話したんだけどすげぇ泣かれて」




…………やっぱり。
そりゃそうだよね、急に別れようだなんて言われたら
そうなるに決まってる。

幸い二人だけだったエレベーターの中で
先輩は話し始めた。




「急だったしすぐには受け入れらんないみたいで
とりあえず保留になったんだけど」


「そう、なんですか……。
じゃあやっぱり今日遥さんが休んでるのも
それが原因で……？」


「だと思う。」




いつも明るくて笑顔のイメージが強い彼女だから
仕事を休んでしまうほどのダメージを受けてること。
信じられないと同時に
なぜだか私まで罪悪感に苛まれる。




「大丈夫なんですかね……？」


「うん、まぁ落ち着いたらまた話そうと思ってるから」




エレベーターを降りる足取りも重い。

そんな私たちとは裏腹に
隣のエレベーターから勢いよく降りてきて
先輩を見つけるなり、ものすごい勢いでこっちまでやってきたのは裕太だった。




「ミツ先輩っ！
遥さんと連絡取れないんだけどっ」


「大丈夫だって。
疲れて寝てんのかもしんねぇから、そっとしとけよ」


「疲れさせたのは誰のせいだよっ！」





普段ふわふわしてて声を荒らげることなんてない裕太が
今にも殴りかかりそうな勢いで怒ってて
慌てて二人の間に割って入った。

その私の姿すら見えてないほど
少し涙目で、でも強い瞳が先輩のことだけを捉えている。





「裕太、落ち着いて、ここ会社だからっ」


「いいから、Aは黙ってて」





トンっ…、と押された肩。
強く押されたわけではなかったけど
遥さんのことでこんなにも必死になって
私のことを拒絶するみたいな裕太の反応に
胸が苦しくて、痛くて。





「………玉さ、そんなに俺の事責める資格あんの？」




そんな私に視線を寄越しながらそう言った先輩に
ハッとしたように私を見る裕太。




「……あ、ごめん、」


「う、ううんっ」




ようやく冷静になったのか
さっき押された肩に撫でるように触れてくれる。

押された肩が痛いんじゃない、
そんな物理的な痛みよりも
もっともっと厄介な、気持ちが痛い……。

１９ 北山side→←１７

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す