泣き顔マニア

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「ほんと……っ、大丈夫ですから……」


「なんでよ、どう見ても大丈夫そうじゃないじゃん」


「でも………っ」




自分の状況が状況なだけに
好きな人が違う人を想って涙を流してるのを慰めるなんて
とんでもなく無神経なことをしてるみたいで。

先輩から離れようとするのに
ソファから降りてきて、更に距離を近付けられた。





「俺さ、玉のことを好きなAを好きになったんだよ」


「…………え？」





真っ直ぐに見つめられてそう言われるから
目の前から動けなくなる。





「会社の飲み会の帰り
まだAと全然そんな話もしたことないくらいの時にさ
たまたまAがひとりで泣いてんの見かけて」


「飲み会の帰り…………、」





それには心当たりがあった。

忘れたくても忘れられない
今のこの辛い状況のきっかけとなった
裕太に告白をして振られたあの日だ。





「すんげぇポロポロ涙零してんのに
拭うこともしねぇでひたすらに泣いてて。
あまりにも泣いてっから俺も声かけるにもかけらんなくて」





あの瞬間をまさか見られてただなんて思ってなかったから
恥ずかしさに一気に顔が熱くなる。





「俺なら絶対泣かせねぇのになぁって。
今思えばあの時からAのことが気になってたんだな」





ふわっ、て笑うその顔は
私を想ってくれてるのを感じるには十分すぎるほどだった。

涙を拭ってた親指が優しく頬を擦るように行き来して
くすぐったいのに気持ちいい。





「でも私は………、」


「裕太のことを好きなのは覚悟の上でAのことを好きになったんだから。
むしろ、あわよくば弱ってるとこにつけ込もうって作戦なんだから甘えとけ」


「つけ込むって…、」





そんな簡単につけ込まれないです、って小さく言った言葉に笑われて
くすぐっていた頬に、唇を押し付けられた。

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