甘く、苦く、こい。

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「A？どうしたの？
口に合わなかった？」





渉さんとの食事中
そう声をかけられて、ハッと我に返った。





「ご、ごめんなさいっ。
ちょっとボーッとしてただけで、全然おいしいです！おいしすぎるくらい！」


「そっか、良かった」





ここに来る道中、Aって名前で呼んでいい？って言われて
私も渉って呼び捨てで呼んでって言われたけど
そうそう簡単にも呼べるもんじゃない。

宏光の時はすぐ呼べたのになぁ……。





「仕事、忙しかったの？」


「ちょっと、だけ……。
最近少しだけバタバタしてるかな？」


「だったらこのあと……うち来る？
あんまり色々連れ回しても疲れちゃうよね」


「あ………、うん……」





少し照れくさそうにそう言うから
こっちまでそれが伝染しそうになる。

別に男の部屋に呼ばれるので照れるほど
ピュアでもなんでもない人間なのに。






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「少しだけ飲み直そっか」




さすがは凄く広いお部屋。
適当に座ってて、って言われたものの
どこに座ればいいのか分かんないくらい。





「渉さんは、どうして私と付き合おうと思ったんですか？」





ビールをグラスに注いでくれたからそれを口にして
隣に座った彼にそう問いかけた。

んー、って考えながらメガネを外す仕草。





「直感……、かな？」


「直感？」


「うーん、まぁ色々ときっかけは沢山あったんだけど
恥ずかしいから今は直感ってことにしといて」


「ふふ、何ですかそれ」





でも確かに気持ちなんて曖昧だし
直感っていう感覚はあながち一番の理由なのかも……、なんてぼんやり考えていると

ふわっと隣から抱きしめられて
顔を向けると、ゆっくり唇が重なった。






「正直Aが付き合ってくれるとは思ってなかったから、今こうしていられるのが凄く幸せ。
これから不自由な思いはさせないし、絶対幸せにするよ」






甘い言葉を投げかけられて、そのまま押し倒されるようにまた唇が重なる。


その重みに、私はもうこの人のものになったんだなってひしひしと実感してきた。

"幸せ"だなんてその人それぞれの価値観でしか決められないのに
私はこの人といて"幸せ"になれるのか
こんな人生を求めていたのか。


こんな状況でそんなことばかりを考えてしまう私は
本当に最低な人間だ。

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