甘く、苦く、こい。

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"明日の夜、空いてるかな？"





飲み会の次の日早速届いたそのメール。

渉さんはもともとそんなにこまめに連絡をくれるタイプではないけど
こうしてたまに連絡をくれるんだ。





"大丈夫です。
楽しみにしてますね"





また思ってもないことを文面にだけ乗せて送信した。
"楽しみ"ではないけど、別に会うことに抵抗があるわけじゃない。

だって将来の安定と幸せをくれる人なんだし。

結婚なんてきっとこんなもんだもん、
愛とかよりも安定かなって思うし。







…………間違ってはない、よね？







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「じゃあ、本当に俺と付き合ってくれるの？」


「はい、こんな私で良ければ」







凄く嬉しそうに顔を綻ばせてくれる渉さんに
私まで嬉しくなったのも事実だった。

それなのに、





「………じゃあ、また連絡するね」


「うん…………」





帰り際の車の中でされた初めてのキス。

触れるだけの行為だったけど
不思議となんの感情も湧かなかった。

宏光との時は
唇が軽く触れるだけでも
そこから身体中に電気が走ったみたいに
ピリピリして、感じてたのに。






「結婚、かぁ…………。」





どんどん遠ざかっていく車を見送りながら
思わず呟いてしまった言葉。


今思えば、今までの男の人たちに
宏光ほどの感情を抱いたことはなかったかもしれない。

分かってはいたけど
結婚という現実を前に、今更ながらに痛感してしまう。

私はこの長い間、どれだけ適当に生きてきたのか。







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「A！結婚するって本当？！」





あの飲み会から週が開けて月曜日。

出勤するなり明日香にそう声を掛けられて
目を丸くして驚いた。





「え？結婚？」


「社長の息子と結婚するって！
会社で噂になってる」


「そんなっ、別に結婚とかまだそんな……」





結婚を前提に、とは言われたけど
まだそんな結婚する、だなんて言ってないのに。

細かく色んな話を聞いていけば
あの日の飲み会の話プラス、社長が自ら息子の結婚が近いだのなんだのの話をしていたらしい。






「いいなぁ〜、羨ましいです」


「…………う、うん……」





後輩や先輩、色んな人にそう言われて
なんだかもうあとには引けなくなっている状況に
どんどん心が落ち込んでいった。

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