甘く、苦く、こい。

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「ちょっとごめんね、」




まさかの渉さんが顔を出してから
皆の質問攻めが凄すぎて、気付いたらさっきまで隣にいたはずの宏光がいなくなっていたことに気が付いた。

慌ててお手洗いを理由に私も席を立つと
ちょうど店を出ようとする宏光が見えて、コートも羽織らずそのまま後を追うように店を出る。






「北山くんっ」





呼び止めると少しだけ白い息が見えて
振り返ったその顔は、今まで見たことがないような冷たい表情だった。






「なに？」


「……帰っちゃうの？」


「うん、なんか冷めたから」





酔いが冷めた、ってわけではないよね……。

さっきまでの甘ったるい声とは真逆の
淡々としたその言葉に、なんだか不安になってすぐ近くまで駆け寄った。





「待って、私も今荷物持ってくるから」


「別にいいよ、Aはまだいればいいじゃん」


「え？でもこの後約束……、」





一緒に宏光の家に行くって約束したのに
さっきの渉さんのことで、きっと気を悪くしたんだってのは一目瞭然。





「ごめん、やっぱ今日なしにしてくんねぇかな」


「さっきの渉さんのことで怒った？
あのね、別にあれは深い意味はないんだけど、

「そんなに楽しい？」




「え………？」







言い訳なんてさせてくれないかのように言葉を遮られて
思わず掴んでた腕を、振り払うように解かれた。

その感覚に
さっき渉さんが来て、宏光の手を解いてしまった自分の行動と重なってしまう。




ただの感触も、急に解かれると凄く傷付くってこと。







「あんないい男キープしながら
俺のこと弄んで、楽しい？」


「っ、違うよ！そんなんじゃっ」


「確かに違うか。
元から俺は都合のいい男だし、当たり前だな」





ふっ、て自傷めいたように笑う宏光に
何も言葉が出なかった。

事実、確かに私たちは都合のいい関係ってだけだから………。







「早く戻りなよ、上着も着てないし風邪ひくよ」


「だって、私が戻ったら宏光帰っちゃうでしょ？」


「……まじでもうそういう気分じゃねぇから、」






縋るようにしても目を逸らされて
こんなにも拒絶されたのは、宏光と出会ってから初めてだった。

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