甘く、苦く、こい。

１２ 北山side ページ12

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「北山せんぱーい」




会社での昼休み
昨日のAさんを思い出して食堂でニヤニヤしてると後ろから声をかけられて
慌てて緩んだ頬を引き締めた。




「どした？」


「Aさんと付き合ってるって本当ですか？！」


「え？」





俺を見つけて突っ走ってきたんであろう勢いとは裏腹に
眉を下げて今にも泣きそうな後輩の田部ちゃん。

付き合ってるって……、
どっからそんな噂が…。





「嘘ですよね？デマですよね？」


「いや………、つかなんでそんな話が？」


「飲み会の後ふたりで抜け出したとか
ふたりでいるのを見かけた人がいるとか……」


「あー……」





そうだよな、二階堂も俺らが抜け出したの知ってたくらいだし
そりゃ噂にもなるわな。

泣きそうになってる田部ちゃんに説明するにも
どう説明したらいいのか分かんなくて。





「北山せんぱい……？」


「うん、いやまぁ付き合ってるわけじゃないんどけどさ」


「じゃあなんですか？」


「…………仲良くしてる？」


「…………なかよく？」




うん、嘘は言ってない。

仲良くイチャイチャしてるだけだしな。





「とにかく、付き合ってねぇから泣くな」


「じゃあ私とも仲良くしてください」


「はいはい、もう仲良いでしょ」




え〜、って納得してない様子の田部ちゃんを
元の席に戻るように言って、また自分の席に着いた。



でも確かに同じ会社でこんな関係続けてたら
変な噂にもなるよな。
だからといって会うな、と言われても会いたいし。





答えが出ないまま残ってた弁当を一気に口に詰め込んで
食堂を出たところで、






「あ、Aさん」






外から戻ってきたんであろうAさんと出くわした。

ちょっと寒かったのか
手をカーディガンですっぽり覆って
鼻も少し赤くなってるのが可愛い。





「北山くん、ご飯食べ終わったの？」


「うん、そう。
Aさんも？外行ってたの？」


「コンビニ行きがてらね
外で食べてたらちょっとまだ寒かった」





やっぱり寒かったんだ、って
カーディガンに覆われて見えなくなってる
冷たくなってるんであろうその手に
無性に触れたくなってしまう。

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