ころころ愛ごころ

２ ページ2

.


「姉ちゃん、ひとり〜？」


「…………違います。」





こんな人生最大と言っていいほど厄日な時にですら
空気も読まずに下心を持って声をかけてくる男も嫌い。

空気を読め、空気を。

すっく、と立ち上がって無視して歩き出すも
その男はしつこく私に話しかけてくる。





「ねぇ、遊ぼうよ」


「用があるので」


「そんな事言わないでさ〜」


「ちょ、やめっ……、離してっ！」





軽々しく肩に触れられて鳥肌が立つ。

もうこれ以上男不信にさせないで…………っ、






━━━━━と、その時







「俺の女に触んないでくれない？」






ぐいっと引っ張られて
その男から離れられたかと思うと
目の前には誰かの背中。

何が起きたか分からなくて呆然としてる間にも
そのしつこい男はそそくさと逃げていった。






「大丈夫？」






そしてこっちをくるっと振り返ったその人は
大きな目を覗かせて、首を傾げる。





「あ………、すいません、ありがとうございます」


「ね、腹減んない？」


「え？」






話の繋がりがなさすぎるその言葉に
思わず眉間にシワを寄せちゃったんだと思う。

その姿に軽く笑うと
目の前の店を指さした。





「ここ知り合いの店なんだけど
なんか食わない？」


「い、いえ………」





ナンパから助けてくれたかと思いきや
こいつも結局ナンパかい。

さっきの男より、何倍もお顔も雰囲気も良かったから思わず気を許しちゃいそうだっけど
ナンパなんてこりごりだと、断りを入れて背を向けた。





のに、ふわりと鼻を掠めたいい匂いに足を止めてしまった。







「…………オムライスだ、」


「お、ビンゴ〜」






彼が店のドアを開けたことでダイレクトに鼻に伝わるいい匂い。

その香りに惹かれるように
また彼へと顔を向けてしまったのだ。







「んまいよ、食ってく？」


「…………、」





正直お腹は空いてる。

さっきの飲み会なんてほとんど何も食べてないし
付き合いがてらお酒を口にしたくらいで。





「……………うん。」





いつもなら絶対ついていかないのに
彼の屈託のない笑顔と言葉に店に足を踏み入れてしまった。

多分、今のこの最悪な状況も手伝ってのことだと思うんだけど。

３→←１

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す