キラハグ ２

７５ ページ26

.



「消さねんかい」


「あ、うん、消す……けど……」








どうしよう。
想定以上の出来事が起こりすぎて
思考停止と共に、じんわり目頭が熱くなる。

この火を消して、灯りをつけられたら
さすがにこの泣きそうな顔がバレそうで。









「ありがとう……ひろ………」







時間を稼ぐために発した言葉も
なんだか震えてて、泣きそうなのがバレて逆効果な気がして後悔した。

けどひろは、笑ってポンっと私の頭を撫でた。








「…明日、ちゃんと咲彩と話すから。
待っててよ？」








その言葉に返事をする代わりに
ふっと一息で消したロウソク。








「本当にありがとう……。」








真っ暗になってしまった空間は
何も見えなくて都合がいい。

グイッと力いっぱい袖口で目元を拭って
顔を上げ、上を向いた。









.








「よし、ケーキ食べよ！
ひろ、電気つけてっ」


「ん、分かった」









パッと一気に明るくなって目を細めた先には
ニコニコしてるヒカリと、ひろの姿。

あぁ、幸せだなぁ……って気持ちが溢れて
また泣きそうになる。

それを誤魔化すようにお皿とフォークを取りに立ち
また気合いを入れ直す。








あと少しだけ。

あと少しだけ、笑顔でいたい。








.









「ていうかさ、ロウソク大きいのが2本と
小さいのが5本だけど……
これって25歳ってこと？」


「あれ？違った？」


「私27になったんだけど………」


「え、まじ？意外にいってんな」


「ちょっと、どういうことなのそれっ」


「いやっ、褒めてんの！
若く見えるな〜って」


「……だとしても、年齢間違うとかないでしょ」


「だよな〜、ごめん」








そういうとこもひろらしいけど
なんでも笑顔で楽しいことに変わっちゃうこの感じも好きだったな。


イチゴ大サービスだぞ、って
取り分けてくれたケーキが見えなくなるほどイチゴを乗っけてくれるし。

これじゃあ最早イチゴ食べてるみたいになっちゃう。









そんなくだらないことで笑いながら時間は過ぎて、









.









「……………お世話になりました。」









早朝、まだ日も上がっていない薄暗い空。

静かに荷物をまとめて家を出た。









二人の寝顔をしっかり目に焼き付けて

食べきれなかったケーキだけを残して。






.

７６→←７４

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す