唇で語れたら。２

９１ 北山side ページ42

「いたっ、」








かるーくAの背中にぶつかって
ポテッと落ちた枕に、俺を振り返った。








.









「……え？」







携帯片手にきょとんとしてるから
もう一個、横にあったクッションも投げつけて







「ちょっ、なにっ、？」







そのクッションを受け止めようとしたけど
受け止めきれずに、また下に落ちた。







.








「下手くそ〜」


「はぁ？ちょっと、なにっ？」


「来て、こっち」


「え？」


「ちょっとだけ。」






.









甘くそう呼べば
ちゃんとそばに来てくれるのも知ってる。

旦那が帰ってきてるのに
何かしら理由をつけて
俺とこうして一緒にいてくれたのも知ってる。





でも今この瞬間、
俺のことよりも
遅くなったことで旦那のことを心配しちゃってるAに
腹が立っちゃってんだと思う。

強い”独占欲”が
いつの間にか俺の中に存在してる。






その俺の気持ちを察したのか
またゆっくりと俺のいるベッドの方へと戻ってきて
ギシッと音を立ててベッドの端に座り込んだ。








.









「……ごめんね。
熱大丈夫？クラクラしない？」







散々さっきまで旦那のことで頭いっぱいだったくせに
今更俺の心配かよ、って思ったけど
眉を下げてあまりにも申し訳なさそうにそう言うから
座り込んだAの後ろからお腹に手を回して抱きしめた。








「大丈夫じゃない、っつったらどうする？」


「……え、」






困らせたくなるのも
Aのことが好きだからだし。






.









「………なーんて。
さっきよりだいぶ良くなったよ。
寒気しなくなったから、布団暑くて目覚めたし」


「そっか、良かった…。」






安心したように肩を落としたから
髪を片方に寄せて、首筋に吸い付いた。






「帰る？」


「……ん、帰らなきゃ…。」


「じゃあ最後に一個お願いしてい？」


「なに？」







首筋から唇を離すと振り返るから
赤くぷっくりしてる唇を親指でなぞった。

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