唇で語れたら。２

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「ただいまぁ〜……、」








返事があるわけもないのに、癖のようにそう言って部屋に入ると
電気もつけずにそのままソファになだれ込んだ。





心地よい倦怠感の中
そのまま目を閉じれば、まだ鮮明に思い出されるひろの香りと温もり。

一人ぼっちなはずなのに
まだあの腕に包まれてる感覚がして、一人じたばたと暴れた。









「……もう会いたいな…。」









そう呟いたその本音は
旦那に対するものなんかじゃない。




結婚記念日、という大事な日におかした罪。

それが罪だろうが何だろうが
もう、気持ちを止められないから。









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「…っよし、シャワー浴びなきゃ。」







ひろの温もりを洗い流すのが勿体なかったけど
雨に濡れたし、このまま寝るわけにもいかないし。

なにより、旦那に勘づかれるのも怖かった。








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ベッドの中で一人、ウトウトとし始めた頃
ガチャガチャと玄関の音がして、そのまま真っ直ぐ私のいる寝室へとやってくる足音がした。







──ガチャ、





寝室の扉が開く音がして
背中を向けながら、目をギュッと瞑った。









「A？寝ちゃった？」






ベッドサイドにしゃがみこんでるのか
耳元あたりで聞こえてくるその優しい声。







「・・・」


「寝ちゃったよな」







聞こえるか聞こえないかくらいの
小さな声でそう言うと
背中を向けてる私の髪を撫でて








「ごめんね」









と、呟いた。









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───パタン、




とまたそのまま寝室を出ていく音がしたのを確認して
もぞとぞとその扉へと視線を向け、布団を手繰り寄せギュッと握りしめた。









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「謝らないでよ……。」









謝るのは私の方なのに。

いっそ、なんの悪びれもなくいてくれたら私だってこんなに、








・・・こんなに胸が苦しくなることもないのに。

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