唇で語れたら。２

９８ ページ49

.







「────っ、」









.









見なきゃ良かった。

知らなきゃ良かった。









.









「ね？普通だったでしょ？」









少し照れたようにそう言う佐藤さんに
なんの言葉も返せなかった。




だってそこには・・・、









.









.









.






俺の知らないような笑顔で
幸せそうに旦那に寄り添って笑う
Aがいたから。







.








.








「なんかやたらとディズニーランドに行きたいって言ってた時期があって
僕はあんまそういうとこ得意じゃないんですけど、行ってみたら意外に楽しくて」


「……へぇ…、」


「ノリノリでミッキーの耳とか付けて、恥ずかしいですねこれ」


「……いや、楽しそうでいいっすよ」









ありきたりな返し言葉しか出てくないくらい
頭の中が真っ白で
ひたすらにその写真を見つめていると
ヴヴ…、っと手に振動を感じて
画面上部に新着メール通知が表示され







”今日は早く帰れるの〜？”






そのメールの文面と共に
Aって名前が表示された。








.









「………メール来たみたいっすよ、奥さんから」


「え？」







携帯を返すと
すいません、って軽く頭を下げてまたポケットへとしまい込んだ。








「仲良いんすね、奥さんと。」








悲しみ、怒り、嫉妬。

現実を知ってしまった今
いろんな感情が自分の心を支配してるのに
一つ一つが、その感情を打ち消して
心が無になり、逆に冷静になってしまう。

きっと
心が壊れそうな、俺の本能の防御反応。




.









「いや、でも最近仕事が忙しくて構ってやれてないんですよ」


「あー、それは奥さん寂しがるでしょ？」


「どうなんですかね？
あんまり感情を表に出さないんで」


「…そう…なんすか。」


「でも最近仕事も落ち着いてきたんで、ちゃんと構ってやろうかなって思ってるんです」









.








さっきの仕事モードから一変
優しく笑うその瞳。








.









・・・なんだよ。


ちゃんとAは愛されてんじゃん。

こんなにもこんなにも、愛されてんじゃん。







.









妻を想う旦那の優しい瞳と
旦那を想って寂しい目をするA。








俺がいる必要なんて
最初からなかったじゃん。






.

移行のお知らせ→←９７ 北山side

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す