欲しい愛と、知らない恋 ２

６１ 玉森side ページ12

.



「玉ちゃんのお部屋めちゃくちゃいい匂いっ」


「そう？」


「女の子みたいな匂いするねっ」


「Aはすんっごい酒くさい」


「だからごめんって〜」







クンクン犬みたいに俺の部屋の匂いを嗅ぎながら
おぼつかない足取りで
おじゃましまーす、って簡単に俺のテリトリーに足を踏み入れた。

仮にもこの前”すき”って言われた男の部屋に
こんなにも簡単に入っちゃうなんて
やっぱりバカだな、うん。








.








「はい、お水どーぞ。」


「ありがとうーっ！」








カーペットの上に小さく座り込んで
両手で俺から水を受け取り、ごくごく飲むAの隣に俺も腰掛けた。








.









「ミツ、もうすぐ帰ってくると思うよ？」


「……うん、」









ご主人様に従順にー！ってすぐにでも走り出して帰るかと思いきや
浮かない顔して、コップを握りしめた。









「やっぱ何かあったの？」


「……うーん……、」


「俺には関係ないけど
聞くだけ聞いてやってもいいよ」


「なにそれ、めちゃくちゃ偉そー」


「偉いもーん。社長だもーん。」


「あは、確かにっ」








ケラケラ笑いながら飲み干したコップを目の前のテーブルに置くと
一息ついて、隣の俺へと体ごと視線をよこした。


その目はさっきまでとは違って
切なく熱を持っていて。









.









.









「……たりないの……、」



「へ？」



「………愛は沢山くれてるはずなのにね…、」









半べそになりながら呟いたその言葉は
ミツに対するものだな、ってのは確証的で。


ゆらゆらしてる瞳とか
俺に対してなんの策略も持ってなさそうなとことか。


出会ったばっかで好きかもって思ったのは
こういうとこなのかもしれない。








.









「だから俺が満たしてあげるって
言ってるじゃん？」









お金や容姿だけで策略的に寄ってくる女じゃなくて
真っ直ぐに愛を欲しがるようなこの瞳。

まるで信頼できるご主人様を探し求めてる
イヌみたいに。








.









「愛には色んな愛があるよ」








.









きっとこの子は真っ直ぐな愛が欲しいだけで
本当の恋を知らない。

６２→←６０ 玉森side

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す