はじまる、恋。６

２５１ ページ12

.




「A、大丈夫？」








北山さんと入れ替わるかのように
私の隣へと来た藤ヶ谷さんにハッと我に返り
コクン、と頷く私に心配そうに優しくまたベッドへと座らせてくれた。









「……目、すごい真っ赤だけどどうしたの？」









そんな私の下へとしゃがみこんで
そっと目元へと触れて

その温もりにまた北山さんを思い出して
思わず駆け出して北山さんのところへと行ってしまいそうな気持ちをグッと堪えた。








”俺のためにもちゃんと藤ヶ谷に気持ち伝えろ”







北山さんのためにも、きちんと藤ヶ谷さんに気持ちを伝えなきゃ。

いつまでも、二人の間で揺れてるわけにはいかない。









.









「…多分北山さんめちゃくちゃ強く私の目元擦ってたから…、」


「まじで？こんな赤くなるまで擦られてたら痛いでしょ？」


「…大丈夫です。」







きっと北山さんなりに
泣きじゃくる私の涙を必死に拭ってくれてただけだから。







「ちょっと待ってて、目元冷やした方がいいと思うからタオル持ってくるね」


「え、大丈夫ですよ全然…！」


「駄目だよ、放っとくと明日かなり腫れちゃうよ？」








ちょっと洗面所借りるね、ってまた立ち上がった藤ヶ谷さんに目を向けると
何だか着ている黒いTシャツに違和感を感じた。








「…あれ？藤ヶ谷さん、Tシャツ逆じゃないですか？」


「え？」






うそ？って自分のTシャツを見て確認する藤ヶ谷さん。








「やべ、本当に逆だ、恥ずかしい」


「ふふ、なんか珍しい藤ヶ谷さんですね」


「すごい急いでたからさ、北山から連絡きて」


「連絡…？」


「そう、早く来ないとAに手出しちゃうぞって。
だからもうめちゃくちゃ急いだらこうなっちゃった」









ちょっと直していい？って
私の隣に座り直して、Tシャツへと手をかけて脱ぎ始めたから
慌てて反対方向へと目をそらした。



いつでも完璧な藤ヶ谷さんが
Tシャツを逆に着てしまうほど急いで私のところへ来てくれたことに
また不覚にもキュンと心を動かした。

２５２→←２５０ 藤ヶ谷side

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す