蜜色の一雫

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「もう帰るの？」


「はい、ごめんなさい。
声もかけずに出てきちゃって」


「本当だよ〜」





俺にくらい声掛けてよな、って
なぜか店とは反対の方向へと歩き出すから
思わず私もそのままその後をついて行きそうになった。






「あのっ、店逆ですよ？」


「うん、でも駅こっちでしょ？」


「駅はこっちですけど……」





さっむ、って肩を竦めながら歩く背中に
これは私を送ってくれようとしてるんだよね？と。


でも、
いやいやいや、ダメでしょ北山さんが抜けちゃ！！






「大丈夫ですよ？！
送ってくれようとしてます？！」


「違う違う、コンビニ行くだけ」


「コ、コンビニ……？」


「そ、タバコなくなったから」


「コンビニならすぐそこに……、」





今目の前にあるけど、と言いかけると
北山さんは立ち止まって私を可愛く睨みつけてくる。

ジトッ、て可愛い効果音が出そうな感じ。






「察しろよ」


「え？」


「コンビニ行くついでに送ろうと思ってんの！」


「でもさっき送ってくれようとはしてないって、コンビニ行くだけだって、」


「だから〜」






と、勢いよく言いかけたけど
まぁいいや、って勝手に自己完結させちゃって
再び駅の方へと体を向けて歩き出した。


うーん、これは
コンビニに行くと見せかけて送ってくれようとしてるんだよね？

いや、それはなんとなく分かったけど
なぜ私なんかを……？







「早く、置いてくぞ」






でも、振り返って私を手招きする北山さんに
吸い寄せられるように私も少し駆け足で追いついた。

北山さんは誰にでも優しいから
とりあえず甘えとこうと思って。






「ありがとうございます」


「だから、コンビニついでだから」


「ふふ、はいっ」






あの楽しい場から一人で帰る寂しさが
一気になくなって、浮き足立った。

彼が隣にいるってだけで。

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