蜜色の一雫

３６ ページ36

.



「………え？ついてこれない？」


「うん、ごめん……。
私は今の仕事をやめてついてくことは出来ない」






その日のうちに家に帰って旦那に話をした。

北山さんから貰った勇気を失わないうちに、
自分の気持ちをまた見失わないように。





「なんで？」


「だってそんなの上手くいくかも分かんないんだよ？
その資金だってほとんど私のお金だし……っ、」


「上手くいくよ、そしたらAの負担も減るし」


「そんな賭けみたいなことじゃなくて
ちゃんとした仕事に就いて欲しいの、私はっ」


「なにそれ、ちゃんとした仕事ってなに」


「いっぱいあるじゃん、
探す気がないだけで探せばあるよ？」


「…………、」






こんなにも旦那に反抗するのは初めてで
心臓が飛び出そうなほど緊張してるのと同時に
旦那の顔も今までにないくらい険しくなってく。


でもここで怯んだらきっと今までと同じだ。

結局何も言えなくて
変わらない毎日に元通りになるだけ。






「もう夜のバイトだって限界だよ。
自分は寝てればいいかもしれないけど
私は寝る間も惜しんで働いてっ━━━━、！



バタン………っ！と急に地面に叩きつけられて
頬にはじんじんと鈍い痛み。

一瞬何が起きたのか理解出来なかったけど
呆然と倒れ込む私を見てハッとした旦那を見て状況を理解した。






手を出された………。

突き飛ばされた……。






「ご、ごめんっ！大丈夫？！」


「……………っ、」






すぐに謝って叩かれた頬に触れようとされたけど
その手を振り払って立ち上がり、寝室へと駆け込んだ。






「Aっ、ごめん！」


「もういい、もうやだ……っ、」





寝室のドアを閉めて
ズルズルともたれかかるように座り込んだ。

それと同時に涙も溢れ出てきて
暗闇の中、旦那の声を背に泣いて泣いて泣いて━━。




こんな時に思い出すのは
昼間、泣いてる私を包んでくれたあの優しさ。





助けて欲しい、彼に。

今すぐにでも会って、またあの手のひらで包んで欲しい。

３７→←３５

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す