蜜色の一雫

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「……………はぁ。」





やばい、これで何回目だろう。

なんとか何も考えないように仕事に取り組んでるけど
ふとした瞬間に思い出してはため息。






「井上さん、ちょっといい？」


「はいっ！」





その時北山さんに呼ばれたから
慌てて立ち上がった。

やばいやばい、しっかりしないと。

パンっ、と頬を軽く叩いて気合いを入れ直した。







「どうしました？」





なぜかそのままオフィスを出るから
歩き出すその姿を追いかける。

声をかけると立ち止まり
クルッと振り返り、私をじっと見つめてきた。






「…………？」






え、なんだなんだ？

何事かと私も立ち止まり見上げると、





「なんかあった？」




って、優しく声をかけられた。




あぁ……、なんでこの人はこんなにもすぐに気付いてくれるんだろう。

だから甘えたくなっちゃう。

こんな時にそんなお顔でそんな優しい声をかけられたら………。







「…………大丈夫です、」


「うそ、大丈夫って顔じゃなくない？」






今まで旦那のこともバイトのことも
友達にも家族にも相談なんて出来なかったのに
この人にだけは……、



この人にだけは甘えたくなってしまう。






「あの…………っ、」






でも、言ったところでどうなるんだろう。

仕事を辞めるなって言って欲しい？
ここにいてよ、って
旦那なんかの言いなりにならないで着いてなんて行くなよ、って……？





「あの……………、
ちょっと…、寝不足で」


「寝不足？」


「はい………、」





そんな言葉を貰ったところで
一体私はどうしたいんだろう。

旦那と別れる覚悟もないくせに
北山さんに甘えるだけ甘えて、迷惑をかけるなんて出来ない。






「もう、だからバイト減らせって」


「ですね、ちょっと今日はゆっくり寝ます」


「うん。夜飯とかなんもしなくていいからな？」


「ふふ、それは旦那が言うセリフですよね」






だな、って笑う北山さんだけど
なんだか泣きたくなって足を進めて北山さんを追い越して歩き出した。

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