蜜色の一雫

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「━━━━さん……、井上さんっ、」


「はいっ？！？！」







おっきな声で後ろから声をかけられて
私もつられておっきな声で反応してしまった。






「もう、さっきから何回も呼んでたのに」


「あ、ご、ごめんなさいっ」


「どうしたの？具合悪い？」


「い、いえっ、すみません！」





先輩に少し心配されちゃって
慌てて頼まれた仕事を引き受けた。



…………だめだ。

さっきの出来事で頭がいっぱいで
仕事に身が入らない。








"……………ごめん。"



って、唇を離してから言われたけど






「もう………、ごめんじゃないよぉ………」






何がごめんなのかも分かんないし
いや、キスしちゃったことに対してなんだろうけど
拒まなかったのは私だし。

あのあと逃げるように給湯室をあとにしてしまった。






「井上さん、これ明日の資料コピーお願いしていい？」


「は………い、？！？！」






先輩に続いて私に声をかけたのは
北山さんで、




「明日の昼まででいいから」


「わ、かりました…………」





椅子から見上げる形で見ちゃう唇。

やけにぷっくりしてるその形が嫌でも目に入ってきちゃって
かーっ、と顔が熱くなるのを感じた。






「…………顔赤くすんなよ。」






そう小さな声で呟かれながら
パサッ、と資料を頭の上に乗せられた。






「………っ///」





な、な、な、なななな、もうーー！！
赤くさせてるのは北山さんなのに！！

声にならない声を上げて
またデスクへとクルッと方向転換をして頭を抱えた。


今日はバイトがない日で良かった。

こんな状態じゃ
ファミレスの仕事どころじゃない。








それにしても、一体どういうつもりだったんだろう。

私、もの欲しそうな顔してたかな
寂しそうな人妻にちょっとキスでもしといてやるか、的な？

でも、だったらなんて"ごめん"なんて言葉…？





考えても考えても北山さんの気持ちなんて分かるはずもなくて
それでも私は余裕そうな彼とは裏腹に
確実に動揺して、意識をしまくってしまっていた。

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