蜜色の一雫

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「井上さん」




それから北山さんは頻繁に私に話しかけてくれるようになった。




「これ、昨日出先で買ってきたんだけど
どう？美味そう？」


「わ！これ高い紅茶だ！」


「え、そうなの？
紅茶とか平均的な値段わかんなくて
店員がやけにゴリ押ししてくるの買ったんだけど」


「それ見事に店員さんにはめられましたね」


「まじかよ〜」






給湯室でのそんな会話。

もともとこの会社の給湯室は場所も離れてるし
あんまり普段人気もないから
こうして話すのが日課になりつつあったりする。






「でも美味しいのは確実なので
入れましょうか？」


「うん、お願い」





シンクに両手をついてワクワクしてるみたいに
私が紅茶を入れるのを覗き込んでる。

毎度思うけどこの距離が近すぎて
要らぬ緊張が走っちゃうんだよ。






「紅茶、俺も好きになってきたんだよね〜」


「ほんとですか？それは良かった」





相変わらず結構なごくごく飲む感じだけど
私が好きなものを好きになってくれるって単純に嬉しいな。

若干顔を緩めつつも、私も横でその紅茶を口にした。





「ん！おいしい！」


「な〜、うまいよな」


「いつもなんかありがとうございます」


「うんいいよ、俺がしたくてしてんだし」





紅茶だけじゃない。

お菓子だったりもたまに私にくれるから
なんだか餌付けされてるみたいだけど
北山さんも一緒に毎回おいしそうに食べてくれるから
私には本当にこの時間が癒しになってた。







「バイト、まだ続けてる？」


「………はい、」





前にファミレスのことがバレた翌日にも
週に何回働いてるのか、とか
何時まで働いてるのか、とか聞かれたけど
それ以降こうして聞かれるのは初めてだった。






「それさ……、辞めることとか出来ねぇの？」






毎回この話題になると気まずくなる空気。

それを誤魔化すように
無理やりに笑顔を作って見せた。

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