蜜色の一雫

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「ただいま〜」





その日の仕事を終えて家に帰ると
旦那が出かける準備をしていた。





「おかえり」


「あれ？どこか行くの？」


「うん、ちょっと友達んとこ行ってくるわ」


「………そう、」






嫌な予感を感じてテーブルをふと見てみると
ひとつの封筒が置いてあって、





「……ねぇ、それなに？」





上着も脱がすにそう問うと
少し罰が悪そうにそれを手にした。





「ちょっとさ、友達が困ってて」


「また？」


「また、とか言うなよ。
困った時はお互い様だろ？」


「そりゃそうかもしれないけど……」






きっとその封筒の中はお金。

彼は頻繁に困ってる友達にお金を貸して助けてるけど
正直うちだってそこまでの余裕があるわけじゃない。

だから私はダブルワークをしてまでも
この生活を支えてるっていうのに。






「返して貰えないわけじゃないんだし、な？」


「……早めに返してもらってね」






でもそこまでは言えなかった。

誰からも好かれる友達の多い彼
困ってる人を助けてしまう優しいとこも
私が好きになったとこだったから。





じゃあ行ってくる、って部屋を出る彼を見送ると
無意識にため息が漏れていた。

疲れがドッと押し寄せるような感覚。

別にダブルワークも慣れたものだし
自分の意思で続けてるんだから、そこに文句があるわけでない。




だけど…………、

たまに分からなくなる。

何のために頑張ってるのかが。







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「………だめだ、ご飯食べよ。」





空腹だからきっと考えがマイナス思考になってるんだ。

よーし！と一人で気合を入れて
準備をしてからご飯作りにとりかかろうとすると
冷蔵庫にひとつだけ残しておいたシュークリーム。

ご飯の前だったけど無性にそれが食べたくなって
立ったままそれを頬張ると
泣きそうになるくらいその甘さが体に染みた。




きっとこの泣きそうな胸の痛みは
北山さんのことを思い出したから。

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