嘘つきなキス

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「あれ、腰抜けちゃった？」








クスクス笑いながら座り込む私に手を差し伸べてくれる彼。

その腕を掴む気力すらない私を見兼ねて
彼もしゃがみこみ、覗き込むように首を傾げた。









「ごめんなさい…、ありがとうございます…」









もし彼がいなかったらどうなってたことか。
考えただけで怖くて鳥肌がたつ。








「んや、別に俺はなんもしてないけど………
で、それハロウィン帰り？」









座り込んでるせいで剥き出しになってる太ももを指さされて
はっと我に返って慌ててスカートの裾をグイッと引っ張った。









「あ、そ、そうです…。
ごめんなさい……」


「あはは、なんで謝るの。
逆にありがたいくらいだけど」









ありがたい……？！なにが……？！

何を言ってるのか理解出来なくて固まる私に
すっ、と自然に触れる指先。









「立てないみたいだし、ちょっと休憩してく？」






「…………え？」









休憩…………………。







休憩……………………？









「なっ、えっ…？！？！」









さすがに、さすがの私でも勘づく。

休憩って………、休憩って、休憩って、

つまりアレのこと？！

この人、さっきまで後をつけてきた気味悪い男と同じようなことをしようとしてません……？









「だってその状態じゃ帰るのも大変そうだし」


「だ、大丈夫です！帰れます！」


「え〜？ほんと？
またさっきの男に追いかけられるかもよ？
どっかでまだ君のこと見張ってるかもしんないよ」


「そ、それは………っ、」







なら、あなたが駅まででも送ってくれればいいのでは、と思ったけど
ここまで助けてもらって、迷惑をかけて、
更に駅まで送ってとはさすがに言えなくて。









「休んでこ？」









何この人。

最低なこと言われてるって分かってるのに
不思議と嫌悪はなかった。

全身真っ黒な服で、ジャラジャラしたアクセサリー付けて、いかにもチャラい遊び人って感じなのに
可愛い顔と鼻にかかった甘い声が、警戒心を失わせる効果を見事に発揮してるせいなのか
どうしても悪い人には見えなくて。









「逆にもっと腰抜けるようなことしちゃったらごめんね？」



「へっ？！」



「んふふ」









月明かりに照らされて
銀にも見える、金にも見える彼の髪。

髪も、声も、キラキラと輝いている彼に導かれるように


気づけば私は生まれて初めて
軽はずみで大胆な決断をしていた。

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