28 北山side ページ28
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「悪い女」
そう言い続けなければ、自分の感情が暴発してしまいそうで怖かった。
嘘は守ってくれる。
Aを
玉森を
俺自身を
バンドを
だから嘘をつくことを俺は厭わない。
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なんて。
本当はそんなの言い訳だ。
本当に全てを守りたかったら、ここに来るべきじゃないのは分かってたくせに
色んな言い訳と理由を付けてここに来て
衝動のままにAを抱き潰した。
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なんで
なんであの場所でまた会うんだよ。
以前働いていた楽器屋の店長に
久しぶりに今の状況を報告しに行っただけなのに。
少し世間に名と顔が知れて地味に注目されつつあるとは言っても
地に足がついたままでいたかった俺は、未だに公共機関を使って移動していたから
街中に溢れる仮装した人々の喧騒に
今日がハロウィンナイトなことに気づき、
ふとあの道を通ってみたい衝動に駆られた。
一年前、バンド練習の後、
人混みから逃れたくて通った道。
割り切った関係だったただの火遊びの記憶は
まるで初恋を思い出すように
甘酸っぱく、少しほろ苦さを伴う気持ちを残したまま
今でも自分の胸に残り続けて。
らしくないな、と自分でも苦笑しながら歩いていたら
Aがいた───────。
ああ、運命じゃんか。
なんて
乙女のように思ってしまった自分に
更に苦笑いが出た。
んなわけねーし。
だけど声をかけずにはいられなかった。
その顔を見ずにはいられなかった。
A。
決心が揺らぎそうになるのを必死に抑えて
ただちょっと声を聞いて別れよう。
そう自分に何度も言い聞かせて声をかけたのに。
お前がここにいた理由が俺と同じ理由だと知って、どうしようもなく愛しさが込み上げて
そんな気持ちを慌てて消さなきゃと、咄嗟に玉森の名前を出した自分は、
どこまで卑怯な人間だろう。
なのに。
めちゃくちゃな理由でラブホに駆け込んでいくAを見て
我慢なんかできるはずがなかった。
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「悪い女」
だけど想いを凍らせて
心を嘘で固めて
真実は囁けないから
できるのは唇で語ることだけ
せめて秘密を絡め合った指で握り潰して
何も考えずに俺に溺れて欲しくて
何度も何度もAの中で
言えない言葉の代わりに
キスをした─────。
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作者名:はちみつみゆ. ましろ | 作成日時:2020年1月9日 18時