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何度かノックされる部屋のドア。



慌ててドアの側に行くと
私の足音の気配を感じたのか




「俺、宏光だけど」




安心させるような柔らかな声が聞こえて
私は慌ててドアを開けた。



「ひろっ!」



シッ!と自分の唇に人差し指を当てたひろが
猫のように開いたドアの隙間から滑り込んで、ガチャリ、と鍵を閉めた。



「ラブホに入るってのも
今の俺には充分危険行為だったりもするんだけど」




あっ!




「ご、ごめんなさいっ」




私ってばなんて気が回らない女なんだろう。
思わず落ち込み俯いていると、乱暴にクシャッと撫でられる髪。




「まあ、そう言いながら来ちゃった俺も俺だけど」



バツが悪そうに笑い、先に部屋へと入っていくひろの後ろを
慌てて私もついて行く。




「こんな場所に女の子を独りで泊めるのは
さすがに良心が痛むわ。
あんな捨て台詞吐いて普通、女の子がラブホに飛び込んでいくか?

ったく心配させんじゃねーよ」



怒ったように、呆れたように
それでいて少し自嘲めいたような苦笑いも浮かべてひろがベットの上に腰を下ろす。



「ご、ごめんなさいっ」




こんな突拍子もないことして
ひろを不機嫌にさせちゃったことをやっぱり後悔する。



「ねぇ、ほんとに悪いと思ってんの?」


「え?」


「悪い女、になる覚悟あんじゃねーの?」



ひろの前で立ち竦んだままの私に
そっと手を伸ばすひろ。



「カクシゴト、したかったんだろ?」




ああ、



ひろは全部、全部
分かってるんだ。



私がここに来た理由も。
ひろにどうして欲しいか。

そしてひろとどうにもならないことも。



だから運命も、必然も、
今夜だけ。

本音を仮装して、身体をさらけ出して。





そして明日には



何もなかっことと同じになるってことも。








.








「おいで」






甘くて、苦い
優しくて、冷たい、

私の心を狂わせる声。



伸ばされたその手を取れば


あっという間にベッドに引きずり込まれ
標本のようにシーツの上に縫い止められる身体。



見上げる先には、壮絶な色香を纏い
雄の目で私を見下ろしているひろ。



でもその瞳の奥にはまだどこか迷いと
苦悩が見えて。



まだ残ってる理性を焼き切って欲しくて
ひろの中の良心を全部砕いて欲しくて



私からひろの首に腕を巻き付けて
その柔らかな唇を塞ぐ。





「悪い女」





やがて唇が離れると
ひろが私の耳朶を噛みながら、自分自身に言い聞かせるみたいに呟いた。

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作者名:はちみつみゆ. ましろ | 作成日時:2020年1月9日 18時

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