無理心中、お断り【太宰治】

練炭 ページ16

＿＿＿＿太宰治『ヴィヨンの妻』から』



『恋、と書いたら、あと、書けなくなった

＿＿＿＿太宰治『斜陽』から』




***




変な匂い



ッていうか、気持ち悪い。


肺の中に変な空気が無理矢理入り込んで来るような……



(……息苦し)



ぱちくりと目を開けると真っ白い天井と完全に閉められたカーテン(窓ごと開けて寝た筈なんだけど)が目に入った。


しかし次の瞬間目に飛び込んできたのは砂色の外套と炭のようなもの。


なんとなく状況が理解できた私は起き上がって彼を見る。



「……何してるんです」


「ん？練炭自 殺の演習」


「牢屋でお独りでとうぞ」



完全に無理心中だろうが。


相変わらず頭が湧いている。



「人の部屋で何やってるんですか本当通報しますよ」


「美人婦警さんが居ればそれでもいいな。あぁでも君以外と心中する気はないし私の身も心も君のものだから安心し給えよ」


「これ程安心出来ないことありますか」



鼻を抑えながらカーテンと窓を開けて太宰さんの炊いていた七輪と練炭を隔離するようにビニール袋に包んで一旦箪笥(たんす)にしまう。


後で捨てよう。母さんに見つかったら変な誤解をされそうだけどあまり深く考えないようにしよう。


つか母さんもうこの人家に上げないでよアンタの可愛い娘が気付いたらポックリ逝っちゃうよ。



「……っていうか契約忘れたんですか？無理心中はお断りなんですけどね」


「忘れてないってば〜。
云ったでしょ？いつか心中するからそれの演習だよ」


「しないんで。本番のない予行(リハーサル)は要らないですよね？」


「ねぇねぇどの心中方法がいいと思う？練炭は死体が綺麗になるしそれ程苦痛も無いことが多いからお勧めなんだけど私はやっぱり首吊りが」


「人の話を聞けや歩く危険心中装置」



嗚呼、身が持たない

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