信仰43 ページ46
唇が重なりそうになった時、急にAは顔を逸らした。
あわよくばの口付けを逃し、太宰は苛立たし気に「……どうしたの」と問う。
彼女はそれに震えながら答えた。
「すみ、ません……
こういうのは、その……あまり、流れとか勢いとかに任せちゃ駄目だと思います」
嗚呼、と太宰は思う。
思えば彼女は従順ながらも自分の意見をしっかりと持った子だった。
太宰にとってはたかが口付け1つ、されど彼女にとってはそれは重要な愛を示すものなのだ。
その大きな価値観の違いがどうにも切なく思えて、太宰は先ほどまでの熱が冷めていくのを感じた。
「……そうだね」
醜い嫉妬を見せてしまったと若干の後悔をしながら太宰は自分の首に回したAの腕を解放し、ネクタイを解いてやった。
月明かりで少しばかり見えるAの表情は安心したような、まだ少し怯えが残るようなどうにも形容し難いものだった。が、どこか色艶が残っており、未だに太宰から与えられた熱が冷めていないらしかった。
「……手荒なことをしたね。
これじゃあの男達と変わらない」
太宰がそう言うとAは全力でそれを否定した。
「そんなっ、そんなことないです!太宰さんは、その……御忠告のつもりだったんでしょう?」
Aが言ったことに太宰は目を見開く。
……あんなことをされて、まだ自分を尊敬したままでいようとするAがどうにも哀れだった。
あんなものは忠告でもなんでもない。
ただただ滑稽で醜い嫉妬や執着を見せてしまっただけだ。
だが太宰はそれを言わず、火照ったAの頬に指を落とした。
「……それでも、褒められるようなことはしていない。結果Aちゃんを怯えさせてしまったしね」
「い、いいんです……。
酔いもあったし、軽率な行動ばかり取ってしまったのは私ですから……。中原さんにあれ程言われてたのに、本当馬鹿ですね私は」
中原の名前が出てきて太宰はどうにも疎ましかった。
接待役をさせることに了解を出した中原が許せず、自分に言わなかったことにも若干腹を立てていた。
昨日の電話でAが太宰に嘘をついたことも恐らく中原が起因しているのだろう。
太宰はそれらの苛立ちを吹き飛ばすように扉を指さして笑う。
「10秒間だけ待ってあげるから、私から逃げてくれ」
キョトンとした愛らしいAに少し心残りはあったが、これ以上想いをぶつけるのは凶だと太宰は判断したのだった。
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FR3kb7ywsKfcSOL(プロフ) - マジでそれな(^^)b (2020年5月29日 23時) (レス) id: e1643b3add (このIDを非表示/違反報告)
真依(プロフ) - それな( ´-ω-)σ (2018年6月2日 8時) (レス) id: 510e192a85 (このIDを非表示/違反報告)
fuwari - 私は治くんが世界一大好きなのですが...その気持ちものすごくわかります(*'‐'*) (2017年3月9日 23時) (レス) id: f502c3a9d5 (このIDを非表示/違反報告)
かなこ - 無気力感さんとは趣味が合いそうです!! (2017年1月22日 16時) (レス) id: 6ab3ea64fe (このIDを非表示/違反報告)
無気力感(プロフ) - 無名の中二病患者さん» 書いててそれ本当思ってました(´^ω^`)wそこはツッコまないで頂けると嬉しいです(o'3')b シ――――!! コメントありがとうございます(*´∀`*)ww (2016年12月23日 21時) (レス) id: a57f2ac744 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:無気力感 | 作者ホームページ:
作成日時:2016年11月20日 10時