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終わった。
漸く出来上がった書類を保存し、ぐっと腕を伸ばす。
その拍子に身体のあちこちから音がして、結構な間座ったままだったな、と今更気付いた。
「あっ、終わった?丁度こっちも終わったよ」
声の方に顔を向けると、彼が書類を持ってこちらに歩いてくるのが見える。
「うん。ありがとうね手伝ってくれて、助かったよ」
「別にいいよ。お疲れ様」
渡された書類を受け取り、「きりやんもお疲れ」と返してファイルに書類を綴じた。
「……………じゃあ、約束通り私はこれから寝るから」
仮眠室に向かおうと椅子から立ち上がり、「おやすみ」と一言告げて彼の横を通り過ぎようとした時
「待って」
「っえ、」
不意に手首を掴まれ、つんのめって思わず転びそうになったのを何とか持ち堪え振り返る。
「………えっ、と?」
突然の行動の意図が掴めず、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「あー……その……」と口籠もりながら暫く視線を彷徨わせた後、黄金色の瞳がこちらを捉える。
少しだけ、揺れているように見えた。
「……一緒、に、寝たいんだ……けど……」
どう、ですか、と。
尻すぼみに小さくなる声で、耳まで真っ赤になった彼がこちらを窺う。
思わず「へぁ……」と素っ頓狂な声が出た。
普段からしっかりしていて、軍の幹部の中では纏め役になることが多い彼からの急な甘えに脳の処理が追いつかない。ただでさえ寝不足で頭が働かないというのに。
頭で彼の言葉を反芻しぐるぐるしている最中も、こちらをじっと見つめる真っ直ぐな視線に私の頬もじわじわと熱を持ち始めた。
「……だめ?」
「い、いや、その………だめでは………」
こてんと首を傾げ尋ねる彼に言葉が詰まる。
疑問、困惑、羞恥。様々な感情が一気に押し寄せて考えることすらままならない。
しかし、その少しの甘えを含んだ彼の声に私が弱いことを彼は知っている。
「………仕事手伝った俺へのご褒美だと思ってさ」
だめ?と、懇願するような、それでいて私が断れないことを知っていて自信に満ちているような瞳で、とどめの一言を紡ぐ。
私の負けである。
「……………………別に、構いません、けど」
「……ありがと、A」
ほんのり赤く染まった頬で、彼は心底嬉しそうに目を細める。
この顔に勝てない程には、私は彼に惚れてしまったのだな、と。
暖かさと気恥ずかしさを孕んだ感情が心に染み込んでいくのを感じた。
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ナエ - もちねり。さん» コメントありがとうございます!花言葉めちゃ素敵ですよね…衝撃でした… (5月11日 21時) (レス) id: 3282b3d8ed (このIDを非表示/違反報告)
もちねり。(プロフ) - めちゃめちゃ好きです!お気に入り登録失礼します…アンスリウムの意味と別名凄いですね!?こっちにまで衝撃が… (4月12日 9時) (レス) id: a81be2117a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ナエ | 作成日時:2024年4月6日 9時