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118. ページ26











………判っていた。


彼の人の目が絶対に此方へ向かない事も、

絶対に揺らがない愛がある事も。


それでも、好きだった。


だって……

彼の人は、唯一僕を見つけてくれた存在だから。







『ねえ、これ落としたよ』


「…え………?」






初めて話しかけてくれた時は本当に驚いた。

相手が学校の有名人だった事もあるけど、何より僕の存在に気付いた事に一番驚いた。

思わず「僕が見えるんですか?」なんて云うと、彼の人は首を傾げて





『当たり前でしょう?幽霊じゃあるまいし』





って、当然のように云ったんだ。

僕を見詰める瞳が本当に真っ直ぐで美しくて。

僕、その時本当に嬉しかった。


でも…何を云ったら良いか判らなくて。

拾ってくれたハンカチも受け取らずに、その場から逃げてしまった。





………学校でも家でも、影の薄い僕は空気と同じ。

親でさえ時折、僕の存在に気付かない。

なのに、話した事も、顔も合わせた事もない彼の人は一発で見つけてくれた。

僕を孤独から救い出してくれた。



何時も一人だった放課後は、探偵社でワイワイ談笑するようになり、

廊下ですれ違う度に何時も隣の二人が手を振って来るからクラス内で話題の人となり、

きっと彼の人は知らないと思うけど、今ではクラスに割と馴染んでいるんです。


全て、彼の人が僕を見つけてくれたお陰。


あの時もし、僕の存在に気付いていなかったら、

声を掛けてくれなかったら。


きっとこんなに日常が楽しくなる事は無かったでしょう。



そしてこんなに、悲しくなる事も無かった。







「………」







上を見上げると、ビル群に切り取られた真っ黒な空が目に入った。

街の明かりの所為で、星は見えない。




……これ以上、困らせたくない。


ぐっと唇を噛む。


彼の人……篠崎さんが唯一愛しているのは黒帽子を被ったあの勇者。

僕には所詮、村人役がお似合いだ。


勇者になんて、なれない。







「……ごめんなさい。さようなら」






沢山迷惑かけてごめんなさい。

傷付けちゃってごめんなさい。


あなたには、笑っていて欲しい。

だから…僕はこれで身を引く。



さようなら、僕の初恋の人。







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麦子(プロフ) - キティさん» 有難うございます、そちらも近いうちに完結させます! (2018年4月28日 20時) (レス) id: 564537986a (このIDを非表示/違反報告)
キティ(プロフ) - いつも楽しく読まさせていただいてます!deadAppleの方の続き、気になります! (2018年4月25日 0時) (レス) id: 3776331f45 (このIDを非表示/違反報告)
麦子(プロフ) - rikoriko51さん» やっぱり何度も観たくなっちゃいますよね! (2018年4月16日 7時) (レス) id: 564537986a (このIDを非表示/違反報告)
麦子(プロフ) - 高坂美月さん» 有難うございます、かっこいいと思って貰えて嬉しいです!頑張ります!(*^^*) (2018年4月16日 7時) (レス) id: 564537986a (このIDを非表示/違反報告)
rikoriko51(プロフ) - 私は映画を二回見に行きました。 (2018年3月21日 20時) (レス) id: a789258bf1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:麦子 | 作成日時:2018年3月11日 14時

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