JKとちびっこマフィア【番外編】 (ページ29)

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＂帰りたい＂

確かに少女はそう云った。

思わず隣を見たが、その瞳は満点の星空へ向けられている。

薄々感じ取ってはいた。

＂此奴には、想い人がいる＂と。

彼女が時々ふと見せる目。

それは此処には居ない誰かを想うかの様だった。

まさに心此処に在らずといった様子の彼女は、見ていて何故か胸が痛んだ。

「……帰りたいのか？」

『えっ！？』

「今云ってただろ」

『聞こえてましたか…はは…』

すぐ隣にいるのに聞こえないとでも思ったのか。

と中也は内心呆れた。

これもこの一週間で分かった事。

この少女、頭が良い癖に若干天然が入っている。

しかもその上この容姿。

そんなの男が放って置かないに決まってる。

実際俺も相棒も………って、おい待て。

自分で思っておいて吃驚した。

所謂第六感、何かを感じ取る力が無意識下で発動していたらしい。

『……大切な人がいるんです』

無意識ってすげえんだな…と一人感心していた中也は、Aの言葉にピシリと動きを止めた。

『多分、私の事心配してる』

そう伏し目がちに呟く彼女が今どんな人物を思い浮かべているのか。

そんなものは知りたくもないし考えたくもなかった。

『…会いたい……』

そうぽつりと呟いたAの瞳から、真珠の様な涙が一粒零れた。

滑らかな頰を伝ったそれは、小さな顎から彼女のスカートへと落ちる。

「────ッ、」

中也は驚いた。そして慌てた。

何せ、初めて見るAの涙だ。

太宰ですら手を焼く強気な彼女が泣くなんて思ってもみなかったのだ。

「え、お、おい大丈夫か…？」

なんて声をかけるが、彼女は時折しゃくりを上げて泣き続ける。

もっと気の利いた言葉をかけられないのかよ俺！

中也は自分を殴りたくなった。

この身を置いている世界では、女の涙なんて信じてはならないし信じない。

今まで微塵も信じた事は無いが、何故か彼女の涙には慌てふためいてしまう。

「………は？」

が、そんなのも頭からぶっ飛んだ。

アワアワオロオロしていた中也がぴたっと静止した。

何故なら、Aが透け出したからだ。

「……はぁ！？」

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