行かないで ページ6
煉獄の腕の中にいるAの姿が、かつて守ると約束した少女と重なる。
「君が変わっていなくて安心した」
「れん…ごく、さん……？」
「いや、随分と大人になったな……さすがに分からんぞ」
「……っ」
眉を下げて笑う煉獄のその顔は、昔と同じだった。
何も変えられなくて、何もかもが変わってしまった世界の中で、昔のように話せる日がくるなんて思いもしなかった。
このままずっと、もう二度と想い合うどころか笑いかけてすらもらえないと思っていた。
目頭が熱くて、やっと近くで顔を見ることができたのに、その表情はぼやけていた。
それから、Aはこれまでのことを煉獄に話した。
これから煉獄に起こる未来、それから先なにがあって今に至ったのか、話したくないことは沢山あったが、すべてを伝える。
その言葉のひとつひとつを煉獄は真剣に聞いていた。
「そうか……」
やがて、すべてを聞き終えたとき煉獄はそう呟いた。
煉獄に時間がないことと同じように、今のAにも残り時間は少ない。
今のAは、煉獄が出会った頃とは比にならないほど鬼に近付いている。
「とにかく、乗客は守らねばならない！俺たちがこうしている間にも乗客は危険に晒されている！まずはここから戻って、下弦の壱を倒すことが先決だろう！」
「……。」
「A？」
煉獄の提案にAは頷かない。
それもそうだ、Aは誰よりもこの列車での任務の顛末を詳しく知っている。
200人の乗客は過去一度も誰一人として死んだことはない。
それは彼らの寿命は運命で定められており、人の生死という結末は絶対に変わらないからだ。
倫理的にどうかは置いておいて、たとえ煉獄が戻らなかったとしても乗客は死なない。絶対に。
だったら、とAは思う。
人として正しくないと分かっているが、それでもAは煉獄にもう少しだけここにいて欲しいと思う。
もっと言うなら、夜明けまでここにいてくれたらどんなに良いことだろうか。
時間が長引けば長引くほど、太陽が昇る時間が近付くほどに煉獄が生きられる可能性が高くなる。
「お願い……行かないで、煉獄さん」
心細く震える指先が煉獄の腕を掴む。
「煉獄さんにだけは死んで欲しくない。煉獄さんが行かなくても、みんな大丈夫だから……だから、ここにいてください。お願い……」
ずっと、ただそれだけを願って生きてきた。
やっと思い出してくれたのだ、このまままた失ってしまうなんてとても耐えられない。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - なかむらさん» コメントありがとうございます…！！途中まで鋼の意思で絶対にバレないようにしないと！と思っていたので、バレてなかったようで安心しました…！私もいつもなかむらさんの作品の余韻風呂に浸かっているので、今日はお返しができて良かったです！ (2021年4月20日 12時) (
レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
なかむら(プロフ) - 完結おめでとうございます！途中、どうあがいても悲しい結末になってしまう気がして本当にはらはらしていたのですが、これ以上なく優しくて暖かなラストで…良い意味で裏切られました(笑) 本当に綺麗な物語だなぁと余韻に浸っています。今回もありがとうございました！ (2021年4月20日 0時) (レス) id: cefa07e7cb (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - かんみさん» コメントありがとうございます。書き終わるまで何度も悩み、試行錯誤した末の完結でしたので、温かいお言葉を頂けて本当に嬉しいです。他作まで触れてくださり、こちらこそありがとうございます…！！ (2021年4月19日 19時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - この度は完結おめでとうございます…！生存ifはこの上なく難しいにも関わらず本当に納得の、そして感動の小説でした。他作も大好きです。春の陽だまりのような気持ちで包まれます。素敵な作品を書き上げて下さり、ありがとうございました...！ (2021年4月19日 15時) (レス) id: 3c3b852a9c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：月ヶ瀬ましろ | 作成日時：2021年3月24日 20時
