いっそ嫌いと言ってくれ 【土方十四郎】

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「真田さんはいつも通り自然に接触してくれればいいですから」

「自然にって...ピンチの時は頼みますね」



着物の内側に小型のインカムと盗聴器を装着し、パトカーの後部座席に乗り込む。思えば休日街を散策するときも帯刀していることが多いので、腰に何も提げていないというのはなんだか不思議な感じである。

目的地へと車を走らせながら山崎はバックミラーへ目を向けた。外を眺める横顔は戦場を駆ける冷たく凛々しい顔つきからは想像出来ない程儚げで、手を伸ばせば消えてしまうのではないかなんて馬鹿げた事を考えてしまう。物憂げな瞳は今、何を映しているのだろう。綺麗に上を向いた長い睫毛がバックミラー越しに小さく震えたのを、彼は見逃さなかった。



「副長も素直に似合ってるって言ってあげりゃいいのに...」

「え？」

「あぁいや、こっちの話です」



パトカーを人の目に付かない路地裏に停めてAを降ろす。気を付けて下さいね、と言うと彼女は少し緊張した面持ちで微笑んだ。

土方から山崎へ下された命令はある男の素性について調べろ、という至ってシンプルなものであった。どうやら表向きにはかぶき町で薬屋を営んでいるらしいのだが裏で出処不明の違法ドラッグを売り捌いているという噂が流れており、その証拠を掴んできて欲しいとの事である。いつも通り張り込み、何度か接触を試みたのだがこれと言って可笑しな点はなく証拠も手に入れられなかった為女を使って誘惑し、ボロを出させようということらしい。俗に言うハニートラップというやつである。

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