いっそ嫌いと言ってくれ 【土方十四郎】

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「あ〜......眠ィ」



亜麻色の髪の少年、沖田総悟は大きな欠伸をしながら厠を出た。いつものふざけた柄のアイマスクを頭にセットし、寝る準備はバッチリ整っている。本当はこれから見回りに行かなければならないのだが今は土方も書類仕事に追われているし、当分部屋で仮眠を取っていてもバレないだろう。

ふと、ある部屋の前で足が止まる。沖田や土方の自室から少し離れた所にある其処はAの部屋だ。襖が数センチ開いており何やら楽しげな話し声がする。沖田は軽い気持ちで中を覗いた。



「へェ、こりゃァ驚いた。見合いでもするんですかィ」



紺地に金色の菊の花を散りばめた上等そうな着物。普段は一つに結っている長い黒髪をアップにし、目元を紅く彩っている。化粧をいつもより少し派手めに施している所為か、男を誘う様な妖しい色気を纏っている様に見える。
部屋の中にはAの他に隊服姿の山崎がいた。



「やだなァ沖田隊長、副長一筋の真田さんが見合い話なんか受ける訳ないでしょう」

「ちょ、山崎さん...！」

「てこたぁ任務ですかィ。ご苦労なこって」



また一つ大きな欠伸をする沖田。自分から首を突っ込んでおいて大して興味はないらしい。因みに先程やって来た土方には真顔で「...馬子にも衣装ってヤツか」と言われたので取り敢えず顔面にハードカバーの文庫本を投げ付けておいた。
ともあれ今のAにチンピラ警察幹部の面影はない。儚げで品のある、良い意味で普通の女。黙っていれば良家の令嬢に見えなくもない。

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