いっそ嫌いと言ってくれ 【土方十四郎】

11 ページ11

「...帰ったんじゃなかったんですか」

「近藤さんはともかく潰れた女残して帰れる訳ねーだろ。...ったく呑めねェ癖に無茶しやがって、何処にも見当たらねぇと思ったらガキの癖に一丁前にナンパされてやがる」



出た。すぐそうやってガキ、ガキって。いつまでも子供扱いしないで欲しい。歳だってたった六つしか変わらない癖に。
一人何処かへ駆けて行った男の背中が見えなくなった事を確認し、副長は煙草に火を点ける。私を見下ろす普段より幾分か穏やかな藍色。立てるか、と此方へ差し出された手は借りず自力でゆっくり腰を上げればまたしても世界が暗転した。



「ばッ...！無理すんじゃねーよ...」

「...っ」



支えを失った私はすかさず逞しい腕に引かれ、副長の胸の中へ。

想像よりずっと厚い胸板。耳元で心臓がばくばくと暴れ出す音が聴こえる。...全身が火を噴いてるみたいに熱い。さっきのカシスオレンジが今になって回ってきたのか、それとも貴方の体温の所為か。
苦味にほんのり混じる甘ったるい匂いに思わず眉を顰める。よくよく考えてみれば柄にもなく呑んだくれてしまったのも全部この男の所為ではないか。
 


「馬鹿は副長ですよ...ひとの心を平気で弄んで、」

「なんか言ったか？」

「べつに...ていうか私、クソガキじゃないです......一般人に刀向けたりしないし」

「昔の話な。帰んぞ」



小さな子供でもあやすみたいにぽんぽんと優しく私の頭を撫でる大きな手。
貴方は一体、いつになったら私を女として見てくれるのだろう。
 


.

12→←10

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す