いっそ嫌いと言ってくれ 【土方十四郎】

8 ページ8

「きゃあ、土方さんだわ！」
 
 
 
店内に入るなり入口付近にいたキャバ嬢らしき女性数人が色めき立った。その声につられた他の女達もAには目も暮れず、わらわらと隣の土方の周りを囲う様に群がってくる。
 
 

「...やめろそのゴミでも見る様な目」
 
「まさか貴方も常連だったとは」
 
「違ェわ！！接待で何度か連れて来させられただけだ」
 
「はいはい...たった数回でこれなんて色男は大変ですね」



冷めた声音で言い放つと押し寄せる女性の波を掻き分け、輪の外へ出る。焦った声で助けを求められた気がしたが聞こえないふりをした。

真選組一モテる、などと聞いてはいたがこれ程だったとは。普段のマヨラーっぷりやトッシーなど残念な内面ばかり知っているだけになんだかとても複雑な気持ちである。
愛想の良い綺麗な女に囲まれチヤホヤされて気を悪くする男など早々いないだろう...逃げる様に近藤の元へ向かえば既にお妙が付いていた。
 
 
 
「今夜は俺の奢りだ！トシもAもどんどん呑んでくれ！...ってA何で怒ってんの？」
 
「別に怒ってません。それと局長、トシはあっちで女の子誑かしてるので奢る必要ないですよ」
 


明らかに不機嫌そうなAの言葉に全てを察し、苦笑いを浮かべる近藤。別に羨ましいとか妬ましいとか、そういう訳ではない。ただ...
土方は無遠慮にベタベタと触れる女達の腕を振り払おうとしない。されるがままなのだ。

それが不器用な彼なりの優しさだと頭では分かっているのに、腹の奥底でモヤモヤと黒い感情が渦を巻く。

 

.

9→←7

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す