陰キャとさくまの水曜日 (ページ42)

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「あ！きたー！やっほーAちゃん」

「……あれ、阿部くんは」

「阿部ちゃんショーケースの準備中ー、それまで俺とデートね？」

「は？」

花金の戦場を潜り抜け、11時に建築棟を守るために目をこすって準備した土曜日の朝。その場に行くとなぜか阿部くんじゃなくて佐久間くんがいた。

「屋台見て回ろっかー、お腹空いてるでしょ？なんか買ったげるー」

「え、さ、さくまくんも準備とかないの？」

「俺担当じゃないから大丈夫ー、何なら集合時間13時だもん」

聞いてない、阿部くんじゃないにしろもっとゆっくり寝かせてくれって。昨日帰ったのはド深夜だ、居酒屋店員の事を少しは考えてほしい。

佐久間くんに引っ張られて向かった先、キャンパス構内に屋台が立ち並ぶ光景は初めて見た。そりゃそうだ、去年来てないもん。

「何食べる？焼きそばとかいいねー、たこ焼きも美味しそう」

「……手、」

「えー？だって逃げるじゃーん」

「だって、手！」

いつもと違うのは私の手首を掴んでるんじゃなくて完全に手を繋がれているところ。どこのカップルだよと彼を軽く睨む。そこらへんに沢山いるけどさ、どさくさに紛れるな。

「離さないよーん」

でも振り返ってにひって笑った佐久間くんの顔を見て諦めた。こうなったらもうダメ、絶対離してくれない。

「ね？何食べる？俺もお腹空いた、踊る前の腹ごしらえ付き合って？」

「…佐久間くんの好きなの買いなよ」

「うーんそうだなぁ、結局焼きそばかな。じゃあたこ焼きも買って半分こしよう！」

一回通り過ぎたその2つの屋台に向かうため来た道を戻る佐久間くん、引っ張られているので私もだ。文化祭ってこんなに人いるんだな…と人混みに酔いそうになりながら引っ張られる。

今まで大学で見たことないくらいの人数が集まっている。佐久間くんがはぐれないでねーって言って握っている手を強めたのが分かった。正直、繋いでなかったら一発で置いてかれる。

逃げないでね？って一旦手を放し屋台でお金を払った佐久間くん。あ、また奢られた。いつの間にかたこ焼きも焼きそばも買われてる。

「半分払うよ」

「いいの、男が払ったんだから女の子はお財布出さないのー」

なんだ、急にデートとか女の子とか。いつの間にかさらっとまた繋がれている手が引っ張られて、いこ？って私を見て笑う。今更ナンパ路線に変更かと思ったのだけど、手を繋がれてしまってはバイトで培ったスルースキルも発動すらできないのだ。