苦味が足りない ページ29
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待ち合わせ場所はあの時の駅ナカのカフェ。
電車に揺られている間、何て伝えようかずっと考えていた。
一足早くお店に着いた私は迷う事なくホットコーヒーを頼んで、あの時と同じガラスに面した席に座る。
そっと口に含むと、なんだかいつもよりも苦い気がして。ちょっとだけ甘いフラペチーノを飲みたくなった。
「A」
「……やっほ」
「ごめん、待たせた?」
「ううん。早く来ただけ」
久々の佐久間は何らいつもと変わらなかった。ゆるめの服によく着ているボアのアウター。スーツやジャケット姿の方が多く見てるはずなのに、私服の方が見慣れてる気がするのはなんでだろう。佐久間の雰囲気がこっちに合っているからかな。
「頼んでくるわ」
「うん」
またフラペチーノだろうか。そう思ったけど彼が持って来たのはホット用のカップ。
「コーヒー?」
「飲めないの知ってるだろ。ココア」
「あー、そういえば売ってたね」
「俺知らなかった」
まだまだあついそのココアをそーっと飲む佐久間。あったかいのを飲んでるイメージがないから新鮮だ。
「飲む?」
差し出されたそれ。受け取って一口飲むと広がる甘さ。コーヒーを飲んでたからなおさら感じる。
「甘いね」
「Aのコーヒー?」
「うん、飲む?」
「苦いの知ってるからいい」
そう言った佐久間は私から返されたカップの蓋をとって、揺れるココアを見つめだす。
苦いのを知ってる。
それは、私のコーヒーに対してだけじゃない気がして。
「俺さ、Aのこと好きなんだ」
私から呼び出したし、私から切り出さなきゃって思ってたのに。佐久間はあっけなく自分から気持ちを話しだす。
「ごめん、ちゃんと言わないままあんなことして。言ったとしても許されない事したよな」
「……許すよ」
「そんなに簡単に許していいの?」
甘いものを飲んでいるのに、彼の心は多分苦くなっていくんだと思う。私も苦い。口の中だけじゃなくて、心も。
「佐久間とまた仕事したいし、隣のデスクが佐久間じゃないのは私もまだ慣れない。また飲みにだっていきたい。同期会も続けたい」
「……うん」
「許すよ。でも、ごめんね」
私も甘いものを頼めばよかったかもしれない。佐久間の顔が見れなくて、両手で包むカップを見つめることしかできない。
「ごめんねはさ、ずるいって」
佐久間の声は、切なくも明るかった。
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ぽぷら(プロフ) - takkimakkiさん» コメントありがとうございます!お返しがかなり遅れてしまった事をお許しください💦大切に読んでくださったみたいで嬉しいです。Twitterの方も楽しんでいただけてるかな?お付き合いいただきありがとうございました! (7月14日 1時) (レス) id: 0e689a64ff (このIDを非表示/違反報告)
ぽぷら(プロフ) - 颯楓さん» いえいえ!とっても嬉しいです、ありがとうございます。そしてかなり遅れてのお返しになってしまいすみません💦とても感情移入しながら読んでいただいたんだなと思います、お付き合い頂きありがとうございました(^^) (7月14日 1時) (レス) id: 0e689a64ff (このIDを非表示/違反報告)
ぽぷら(プロフ) - ちーさん» コメントありがとうございます!一年以上の時差でのお返しにになってしまったことをお許しください💦お付き合い頂きありがとうございました! (7月14日 1時) (レス) id: 0e689a64ff (このIDを非表示/違反報告)
takkimakki(プロフ) - 初めて、ぽぷらさんのお話に出会えたのがこの作品でした。世界観に引き込まれて、桃色さんとのやり取りに苦しくなったり、緑色さんとのやり取りにギュンとしたり。とにかくステキでした。他の作品も読ませていただきます。Twitterもフォロリクさせていただきました! (2023年1月9日 4時) (レス) id: ff744b84c3 (このIDを非表示/違反報告)
颯楓(プロフ) - 同じ日に別の作品にそれぞれコメントしてしまってすみません、あの、こちらの作品の世界観もよすぎてこの感動を伝えずにはいられませんでした,,,!桃さんとの間にけじめをつけるシーンがもう読んでいて泣きそうになってました,,,ありがとうございます!!! (2022年3月23日 4時) (レス) @page48 id: 263fa867c8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぽぷら | 作成日時:2021年11月27日 18時