▼今宵の月に誓って 朔間零 ページ5
『ちょ､…っお､ろしてくださ…』
「すまぬが､それは聞けぬ願いじゃ」
こんなに可愛い嬢ちゃんに誘われてしまっては､のう？と､彼は笑う｡ぎら､と鋭い牙が､見えた気がした｡心底楽しそうに細められた瞳が､赤く赤く光る｡
“嬢ちゃん､油断していると食べてしまうよ？”
いつぞやの､彼の言葉が頭をよぎった｡心臓がどくどくと忙しく動く｡じわじわと体温が上がる｡きっと､顔も真っ赤だ｡あの時の彼も､同じ表情をしていた｡瞳がぎらぎらと､獣のように鋭くて｡にやりと引き上げられた口元が､楽しそうで｡本気で私の事を全て食べ尽くしてしまいそうな｡そんな目を､口を､熱を｡
彼はしている｡浮かべている｡
「あぁ…またそんな顔をして｡本当に嬢ちゃんは我輩を煽るのが上手いのう」
また熱くなった､とくつくつ笑う声が響く｡反論しようとした声は､出なかった｡彼に､棺桶の中に入れられてしまったから｡そのまま彼が覆い被さるように入ってきて､ばたりと蓋が閉まる｡
『ぁ､…の』
暗くて､朔間先輩の瞳の光しか見えなくなる｡距離が､近い｡ 息が､かかる｡赤い瞳がいっぱいに広がって､呑まれてしまいそうで｡抵抗しようにも､一人でぴったりな棺桶に二人で入っているせいで､身動きが出来ない｡やっと目が慣れてきて､ぼんやりと彼の姿が見える｡シャープな顎のライン｡すべすべの白い肌｡
「嬢ちゃん｡我輩､以前のようにやめたりせんよ」
はぁっ､と荒い吐息が耳に谺響する｡唇､頬､瞼｡そして､首筋｡色んなところに彼が口付ける｡ちゅ､ちゅ､なんてリップ音がやらしく響いて､頭がだんだんぼんやりとしてくる｡
熱い｡彼の息が熱い｡私の肌が､熱い｡溶けそうなくらい｡蕩けそうなくらい｡くらくらくらくらして､思考がぐずぐず溶ける｡もう先輩しか見えない｡先輩のことしか考えられない｡
『……んっ、…ゃあ、う』
かぷ､と甘く噛まれる｡思ってもない刺激に声が出てしまって､慌てて唇を噛む｡首に､彼のあの鋭い牙の感覚がする｡鋭利で､私の皮膚を破ることなんて､きっと容易いんだろう｡
「これこれ､そんなに強く噛むでない」
血が､出ておるぞい？ぞくり､と肌が粟立つ｡ 彼の声が､怪しく響いた｡唇にぬるりと､何かが這う感触がした｡上には､下唇を舐める朔間先輩｡ぎらぎらぎらぎら｡刺すような視線が熱い｡
『ぇ、まさ…か』
「そうじゃ嬢ちゃん｡ここでのことは他言無用じゃぞ？」
___もちろん､これから起こる事ものう？
怪しく笑う先輩の熱に浮かされて｡
今宵の月に誓って､内緒にすることを決めた｡
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春永詩帆(プロフ) - 最高です、素晴らしい作品をありがとうございます。 (2021年12月31日 23時) (
レス) @page28 id: 46695abdda (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - 藍原春陽さん» 申し訳ありません！只今修正致しました。不甲斐なくもたった今気付きました……。ご指摘ありがとうございます！ (2020年11月28日 23時) (レス) id: 9398c4b575 (このIDを非表示/違反報告)
藍原春陽(プロフ) - 全部の話がきらきらしていてとても好きです。ひとつだけ、本文中で凪砂が凪紗になっていることが気になりました。できれば訂正お願いします。これからも頑張ってください。 (2020年11月28日 0時) (レス) id: b2c9d88620 (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - のんさん» ありがとうございます！嬉しいです (2020年8月15日 12時) (レス) id: 3919641d26 (このIDを非表示/違反報告)
のん - 応援してます (2020年5月30日 1時) (レス) id: b1f19877ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：素敵帽子 | 作成日時：2019年8月18日 12時
