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▼その背中に2つの恋を 斎宮宗 ページ37

ぎぃ、と存外古めかしい音を立てて、後ろの扉は開いた。コツコツと静かな足音は、きっと彼のものだろう。相変わらず、この男の出す音は生きている気がしない。全てにおいて音が小さいというか、人間離れしているような気がする。針を止めて後ろを振り向くと、案の定、人間離れした笑みを浮かべた、朔間零が立っていた。

その姿を目視して、また元の方向へ向き直って作業を再開させる。何をしに来たのかねと、それを聞くのは無粋な気がした。


「君が、わざわざ会いに来てまで言いたい事は、一応分かっているつもりだよ、零」

「それはそれは、話が早くて助かるのう」


思っていたよりもすぐ近くで聞こえたその声に、情けなくも驚いて、再度後ろを振り向くと、そこに零の姿は無かった。代わりに、くつくつと可笑しそうに喉で笑う声が、振り向いている方向とは真逆の耳元で聞こえた。その耳――右耳を押さえて其方を向くと、やっと、怪しげに微笑む男の姿を視界に捉えた。

こういう所があるので、この男の吸血鬼などという法螺話が、本当に事実ではないのかと疑ってしまう。生憎、僕はそんな下世話な怪談などを信じるつもりは、毛頭無いけれど。それでも、あまりにも零が人の例外を外れるものだから、本当にこの男は特別なのではないか、と思ってしまうのだ。


「こうやって、五奇人でライブを行えるのは、初めてじゃのう」

「…あぁ。最初で最後だがね」

「くく。全くもってその通りじゃ」


零は、いっとう静かな声で話を始めた。
男性にしては白くてしなやかな指を、僕の頬に滑らせながら、紅い瞳を細めて笑う。セピア色に淡く照らされたその瞳は、血のようだと思った。口調も笑い方も装いも、全てが昔とは異なってしまっているが、この男の瞳だけは変わらない。憎らしいほどに紅く、愛おしいほどに美しい。間違いなく、朔間零の瞳だった。


「最初で最後じゃよ、斎宮くん」

「……ふん。何か忠告をしてくれるのかね」

「ご名答。…流石じゃのう、察しが良いところは変わらぬ。」

「僕は今も昔も、他を超越した崇高なる芸術者だよ」


白い指が僕の頬を滑り落ちて、首に到達する。ひたりと首筋に手のひらを這わされると、これ以上無いほど柔らかく掴まれた。僕を見下ろす紅い瞳が、更に紅く色付いて。弧を描いた唇の笑みが深まる。さも可笑しそうに眉を顰めるその表情は、間違いなく昔の零の笑い方だった。


「彼奴が好きだ。だから奪う。…宣言するのは、これで最後だぞ?宗」

「……ふむ。」









「させやしないよ、零。…彼女を君に渡すはずが無いだろう。」

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春永詩帆(プロフ) - 最高です、素晴らしい作品をありがとうございます。 (2021年12月31日 23時) (レス) @page28 id: 46695abdda (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - 藍原春陽さん» 申し訳ありません!只今修正致しました。不甲斐なくもたった今気付きました……。ご指摘ありがとうございます! (2020年11月28日 23時) (レス) id: 9398c4b575 (このIDを非表示/違反報告)
藍原春陽(プロフ) - 全部の話がきらきらしていてとても好きです。ひとつだけ、本文中で凪砂が凪紗になっていることが気になりました。できれば訂正お願いします。これからも頑張ってください。 (2020年11月28日 0時) (レス) id: b2c9d88620 (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - のんさん» ありがとうございます!嬉しいです (2020年8月15日 12時) (レス) id: 3919641d26 (このIDを非表示/違反報告)
のん - 応援してます (2020年5月30日 1時) (レス) id: b1f19877ba (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:素敵帽子 | 作成日時:2019年8月18日 12時

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