▼その背中に2つの恋を 斎宮宗 ページ36
『珍しいね』
「何がじゃ?」
『零くん、そんなに宗の事気にしてたっけ』
別に、仲が悪かったとかじゃない。寧ろ糸電話で友情を深め合う程に仲は良好だろう。だけれど、零くんが衣装作りをしている宗の元へ態々訪ねに行く事は、今まで無かった。彼だって宗の事を分かっているから。芸術に没頭する宗の邪魔をしないように、配慮していたんだと思うのだけれど。なのに急に、よりにもよって今。宗が一人でいる時に会いに行くだなんて。
「こんな時でないと話せないからのう。それに、」
『?』
「忠告もせんとじゃし」
『…ふふ。へんな零くん』
紅い目を仄かに煌めかせながら、ある筈の無い顎髭を撫でる仕草をする零くんに、少し笑ってしまう。なんの忠告をするのかは馬鹿な私の頭ではさっぱり検討も付かない。少し知りたい、なんて思ってしまうけれど、二人が何を考えてるのかなんて事は昔から謎めいているから、理解するのは止める事にした。
変な仕草を繰り返す零くんのふわふわした髪の毛を、昔と同じように耳に掛ける。紅い瞳を覗き込んで、頬をつんつんと小さくつついてやると、切れ長の目が驚いたように見開かれて、それからやっぱり昔みたいに優しく微笑まれた。…笑みを深めるその口元は、昔みたいにやんちゃでは無かったけれど。
「っはは。懐かしいのう、それ。もっとしてくれ…“A”」
『……!!』
『昔より随分と甘えん坊になったね。“零”?』
うるせぇよ。
と、ぎらんと鋭い犬歯を覗かせて、可笑しそうに笑う零。大人びたおじいちゃんの彼はナリを潜めて、子供らしい彼が顔を出した。五奇人の魔王様。天性の才能で、人々を魅了する男。あぁ、それは今もか。年老いた吸血鬼も良いけれど、五奇人の彼はこうでなくっちゃ。
ぱちんとスイッチの押される音がどこかで鳴る。昔のように、呼び捨ての名前にほっとした。
「宗に好きだって言ってやったのかよ?」
『……っえぇ!?』
「ぶはっ」
昔の零の口調に戻っても、何でもかんでも唐突なところは全然変わっていない。困った男だ。もう安心しろよ、なんて。笑う彼の言う事はやっぱり分からなくて。急に昔の通り接してくれる彼の意図も分からない。
宗に何を聞きに行くのだろう。
いっその事、零に着いて行って聞いてしまおうか。…否、でも私は尾行とかは直ぐにバレてしまうからなぁ。しかし気になる。どうしようか。行ってしまおうか。
「Aねえさん。ちょっと良イ?」
着いて行こうと、踏み出しかけた足を引き止めるように、夏目の声。
ひらひらと振られる手が、変わらず白くて細かった。
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春永詩帆(プロフ) - 最高です、素晴らしい作品をありがとうございます。 (2021年12月31日 23時) (レス) @page28 id: 46695abdda (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - 藍原春陽さん» 申し訳ありません!只今修正致しました。不甲斐なくもたった今気付きました……。ご指摘ありがとうございます! (2020年11月28日 23時) (レス) id: 9398c4b575 (このIDを非表示/違反報告)
藍原春陽(プロフ) - 全部の話がきらきらしていてとても好きです。ひとつだけ、本文中で凪砂が凪紗になっていることが気になりました。できれば訂正お願いします。これからも頑張ってください。 (2020年11月28日 0時) (レス) id: b2c9d88620 (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - のんさん» ありがとうございます!嬉しいです (2020年8月15日 12時) (レス) id: 3919641d26 (このIDを非表示/違反報告)
のん - 応援してます (2020年5月30日 1時) (レス) id: b1f19877ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:素敵帽子 | 作成日時:2019年8月18日 12時