▼その背中に2つの恋を 斎宮宗 ページ34
暗く締め切られた重たいカーテンは､外からの日光の光を遮断している｡そんな薄暗い部屋で僕の手元を照らすのは､セピア色のアンティーク照明のみ｡古ぼけた暖色の光が､朧気に針と糸とを照らし出す｡
衣装を縫うこの時間は悪くない｡この時間が一番僕の気持ちを落ち着かせる｡この衣装に袖を通す人間の姿を反復して､全て捨て去って没頭できるのだから｡別に着る人間のためだけを思っている訳では無く､作る衣装の出来栄えが僕の納得のいく物になっているのか､という事も当たり前に大事ではあるが｡
“じゃあ…五奇人で､ライブしよう”
あぁ｡また思い出した｡透き通った声が凛と紡いだ
いつもそうだ｡
彼女は良くも悪くも､空気を読まない｡僕が､…否｡“僕達”が言い出せない事を､いとも簡単に吐き出してしまう｡僕達があの喫茶店に集まって談笑したあの日から､全員が言いたくても言い出せなかった事を緊張も何も無く言ってしまうのだから､彼女は恐ろしかった｡
動き出そうとしない僕達に焦れたのか､それともただ自分がもう一度五奇人のライブを見たいだけなのか｡…そんなことを､わざわざ聞き出すのは煩わしいからしないが｡
｢…全く｡ライブをしようと言ったのは君なのだよ､A｡｣
衣装の手直しをこの僕に任せたのも君だろう｡何故隣に居ない｡なぜ僕一人に縫わせる｡この衣装を作ったのは僕と君｡下手な君なりにもそれなりに頑張って作り上げたのでは無かったか｡まぁ僕が居なければ完成など有り得なかったが｡
なのに何故居ないのだ｡
何故僕よりも彼らのところで笑っているのだね｡
君は､昔のように僕の隣には居てくれやしないのかい｡
｢(まぁ､もういいか｡あまり縛り付けても良いことは無かったと､僕は学習したからね)｣
ちくちくと､また衣装を縫い始める｡当たり前だろうが､男は一年もあれば背は伸び体重も増える｡骨格も男らしく成長して､日に日に変化している｡一年前の寸法が合わないのは至極当然なのだが､らしくもなく少し戸惑ってしまった｡
もうあの時の僕らでは無いのだと｡
唯一､同格の才能を持つ友人達と過ごしていた日々はもう過ぎ去ったのだと｡改めて思い知らされた｡…きっと､過去を懐かしみ､過去に縋っているのは僕だけなのだと｡
新しい道を､僕らは歩き出している｡昔を振り返らず､今を見詰めて｡誇らしい事だ｡素晴らしい事だ｡
振り返るな｡
▼その背中に2つの恋を 斎宮宗→←▼その背中に2つの恋を 斎宮宗 ※十六夜 桜様リクエスト
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春永詩帆(プロフ) - 最高です、素晴らしい作品をありがとうございます。 (2021年12月31日 23時) (
レス) @page28 id: 46695abdda (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - 藍原春陽さん» 申し訳ありません！只今修正致しました。不甲斐なくもたった今気付きました……。ご指摘ありがとうございます！ (2020年11月28日 23時) (レス) id: 9398c4b575 (このIDを非表示/違反報告)
藍原春陽(プロフ) - 全部の話がきらきらしていてとても好きです。ひとつだけ、本文中で凪砂が凪紗になっていることが気になりました。できれば訂正お願いします。これからも頑張ってください。 (2020年11月28日 0時) (レス) id: b2c9d88620 (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - のんさん» ありがとうございます！嬉しいです (2020年8月15日 12時) (レス) id: 3919641d26 (このIDを非表示/違反報告)
のん - 応援してます (2020年5月30日 1時) (レス) id: b1f19877ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：素敵帽子 | 作成日時：2019年8月18日 12時
