▼兎も立派に噛み付ける 仁兎なずな ページ31
抱きしめてもらう時、いつもなずなからはいい匂いがする。石鹸の香りに、何かちょっと甘い匂い。
香水の香りか、なずな本来の匂いなのかは分からないけど。それでも、その香りに包まれるといつも幸せな気分になる。
思わず甘えたくなるような、そんな香り。
顔を埋めた彼の枕からは、彼の香りが強くする。…いい匂い。酔ったみたいに頭がクラクラして、胸が異常なくらいどきどきして。ねぇ私って可笑しいのかな。こんな事をして、勝手に安心してるの。
「〜〜〜っ!?」
どたばた。ベッドが揺れる。
私は枕に顔を埋めているからなずなの様子は分からないけど、何かに吃驚したように暴れているのは分かった。何にそんなに驚いているんだろうか。少々忙しなさ過ぎると思うのだけど。
「Aっ!なんれ寝っ転がってるんら!」
『えっ駄目?』
「っ、駄目?って…! ……駄目だろ…」
黄檗色が項垂れて、赤い瞳が彼の華奢な手で隠される。小さな背中が丸まって余計に小さくなって。………本当、危機感持ってくれよ。 と、その唇が紡いだ。
危機感、って。 自分の貞操を危ぶむアレの事?
まさかそれを彼に持つなんて有り得る訳ない。だってなずなは可愛くて。それに私の嫌がる事はしないから。現に手を出してくる事なんて、今まで無かったもの。
『なずなに危機感なんて持った事ないよ?』
寧ろ安心してる。
失礼だとは思うけれど、実際彼にそんな行為が出来る度胸なんて無いと思う。だって彼は、可愛い可愛い子兎さん。可愛らしい草食動物に、そんな獰猛な一面なんてある筈がないのだから。
だからこそ私はこうやって甘やかしている訳だし、君が何もしないって分かってるから警戒も何もしないんだ。
「………それ、本気で言ってるのか?」
『…? うん』
瞬間、彼の表情が抜け落ちた。いつも笑顔を描く口元は真一文字に結ばれて、くりくりと動く丸い目は静かに細められる。見た事も無いようなその顔に、ぎゅう、と心臓が荒々しく掴まれたような気がした。
『なず、______……っ!?』
あの華奢な手が伸びてきて、彼の名を呼ぼうとした口を塞がれる。その手は私の顔の鼻から下をすっぽり覆ってしまって、思っていたよりも大きいその手に驚いてしまう。
熱くて、少し骨ばった手。
『(…あれ、なずなの手ってこんなだっけ)』
ぎしり、とベッドのスプリングが鳴る。仰向けにされて、なずなが覆い被さってくるのが見えた。視界に入った黄檗色に、これはまずいと慌てて起こそうとした身体を押さえつけられる。
「もういいよ」
低い声が鳴った。
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春永詩帆(プロフ) - 最高です、素晴らしい作品をありがとうございます。 (2021年12月31日 23時) (レス) @page28 id: 46695abdda (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - 藍原春陽さん» 申し訳ありません!只今修正致しました。不甲斐なくもたった今気付きました……。ご指摘ありがとうございます! (2020年11月28日 23時) (レス) id: 9398c4b575 (このIDを非表示/違反報告)
藍原春陽(プロフ) - 全部の話がきらきらしていてとても好きです。ひとつだけ、本文中で凪砂が凪紗になっていることが気になりました。できれば訂正お願いします。これからも頑張ってください。 (2020年11月28日 0時) (レス) id: b2c9d88620 (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - のんさん» ありがとうございます!嬉しいです (2020年8月15日 12時) (レス) id: 3919641d26 (このIDを非表示/違反報告)
のん - 応援してます (2020年5月30日 1時) (レス) id: b1f19877ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:素敵帽子 | 作成日時:2019年8月18日 12時