▼兎も立派に噛み付ける 仁兎なずな ページ29
無駄に長いこの夢ノ咲の昼休みははっきり言って暇だ。俺はその昼休みを大体彼女と過ごしている…んだけど。今日は少し違う。彼女とお弁当を食べ終わって、いつもならそのまま世間話や授業で分からなかった事とかを話したりするのだが、今おれは3-Bの教室にいる。
彼女じゃなくて同級生の、薫ちんと。
「で、わざわざ俺に相談したい事ってなに?」
まぁ、大体想像つくけどさ。
そう言って同級生は煩わしそうに目を閉じた。長いまつ毛が影を落として、そのさすがの美形にやっぱりアイドルだなぁと感心してしまう。頬をついたその骨張った男らしい手に、嫌でも自分の手と比べてしまって。その差が余りにもありすぎて嫌になる。男の手とは言い難い、細くて小さい手。
グー、パーと握ったり開いたりしながら、その頼りない手を恨めしく思った。
「やっぱりさ、おれって可愛いのかな…」
「え?」
“可愛い” “可愛い!好き” “なずな可愛い!”
ずっとAは俺に可愛いと言う。これでもかって程の、最上級の蕩ける笑顔で。彼氏として、男として、そんなことを言われるのは余り良くはないと思うのだけれど。それに可愛いと言われると、俺の意志無し勝手に過去の記憶が頭の中で再生されるのだ。
人形だったあの頃の記憶。お師さんと、みかちんとの記憶。砂時計の砂は全部落ちきっていたのに、それでも無理矢理掻き集めて紡いでいた時間。歌えなかった。 望む通りの演出をするしかなかった。お師さんの、最高傑作を守らなくちゃいけなかった。そんなおれの、高校での一度目の青春。黒歴史、最悪の過去。 ……なんて。そんなことは絶対に無いけれど。ちゃんと楽しかったし、ちゃんと大切だった。確かに、一番大好きな仲間だった。
…そんな、過去だけど。
それでも、やっぱり“お人形”と言われているようで。
余り、嬉しくない。 否、全然だ。
「成程ね…。つまりはAちゃんに可愛いって言われてるって事か」
「今ので分かる薫ちん凄いな」
「まぁ普通分かるよね〜」
ふふん、と得意げに彼の口角が上がる。さすがは多くの女の子を手玉に取ってる男と言ったところか、やっぱりこういう事を相談するのは彼に限る。頼もしい友人の様子に、これなら大丈夫そうだとほっと一息ついた。
「薫ちんの言う通りで、Aはおれに可愛いってばっかり言うんだ」
それで彼女の笑顔が見られているから、可愛い事にも感謝するべきなのかとは思ったけど。それでも、やっぱり好きな人には男らしいと思われたかった。
「それなら良い方法があるよ。 なずなくん♪」
白い歯が、溢れる。
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春永詩帆(プロフ) - 最高です、素晴らしい作品をありがとうございます。 (2021年12月31日 23時) (レス) @page28 id: 46695abdda (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - 藍原春陽さん» 申し訳ありません!只今修正致しました。不甲斐なくもたった今気付きました……。ご指摘ありがとうございます! (2020年11月28日 23時) (レス) id: 9398c4b575 (このIDを非表示/違反報告)
藍原春陽(プロフ) - 全部の話がきらきらしていてとても好きです。ひとつだけ、本文中で凪砂が凪紗になっていることが気になりました。できれば訂正お願いします。これからも頑張ってください。 (2020年11月28日 0時) (レス) id: b2c9d88620 (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - のんさん» ありがとうございます!嬉しいです (2020年8月15日 12時) (レス) id: 3919641d26 (このIDを非表示/違反報告)
のん - 応援してます (2020年5月30日 1時) (レス) id: b1f19877ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:素敵帽子 | 作成日時:2019年8月18日 12時