▼そんな君を知りたくなかった 七種茨 ページ17
｢ど､どうかしましたA｡今日は降りて来なかったですが､何処か痛むところでも？｣
『ううん｡無いよそんなの』
｢では､何故今日は……｣
Aが､ゆっくりと緩慢な動作で起き上がる｡被っていた毛布がずり落ちて､細い線で描かれた彼女の身体が露になった｡俺と一緒じゃない何処かの高校の制服｡何処にでもありそうな紺色のブレザーが､寝ていたからか少し皺になっていた｡いつもは清楚にひらりと舞うプリーツスカートは､太腿が覗くまでずり上がっていて｡その白さに､その艶めかしさに､ごくりと唾を飲み込む｡
…別段､深い意味など無いが｡
『今日はね､私の意思で降りなかったの』
｢は？｣
俺とお揃いの群青色の瞳が､此方に向けられる｡いつも柔らかく蕩けているその深い青は､今は静かにぎらぎらと意志を持っていて｡別に睨まれている訳じゃないのに､鼓動が嫌に跳ね上がる｡その表情は､至って穏やかないつも通りの彼女の筈なのに｡濃くて深いその青は､確かに怒っていた｡
『ねぇ､茨｡＿＿＿＿＿今日のライブは随分楽しそうだったね』
｢ぇ､……っええ｡…まあ｣
『ニュース｡トップだったよ｡……ほら､こんなにきらきらして楽しそうな茨の写真､載ってる』
Aは捲れたスカートを直しもせずについ､とスマホを操作して､画面一杯に広がった俺の画像を見せた｡彼女の細長い指が､とんとんと画面上の俺の顔を叩く｡
『いつもこんなに輝いてるの？何処の誰かも分からない､ただ茨のファンってだけの女の子にこんな顔をしてるの？ねぇ､茨｡…ライブ中の貴方は随分と活き活きしてるんだね』
知らなかったなぁと､ぽつりと零された言葉が｡汗を流しながら歌う画面の俺を見つめる瞳が｡大切なものに触れるようにスマホをスクロールするその白い指先が｡怒っていた｡普段の彼女らしくない､剥き出しの醜い感情｡麗しい群青色が､激情に染まる｡それを縁取る長い睫毛が､震えていた｡
『……私には､こんな顔｡ 見せてくれた事､無いじゃない』
弱々しい声｡いつも溌剌とした彼女からはまるで想像がつかなかった｡脳味噌に直接響くようなその声は､簡単に俺の思考を奪って｡泣きそうな､寂しそうな声が｡脳内を支配した｡
｢＿＿＿＿＿､A｣
『見てこれ､“茨くん､私を侵略して”だって｡……見つけたの｡…っ､ふふ｡ほら早く｡侵略しに行ってきなよ？』
｢A､｣
『自分で征服しに行くって言ってるもんね｡お客様は神様でしょ？ファンが第一なんでしょう｡私なんかの事なんてもういいよ｡もう､十分だから』
｢……っA！｣
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春永詩帆(プロフ) - 最高です、素晴らしい作品をありがとうございます。 (2021年12月31日 23時) (
レス) @page28 id: 46695abdda (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - 藍原春陽さん» 申し訳ありません！只今修正致しました。不甲斐なくもたった今気付きました……。ご指摘ありがとうございます！ (2020年11月28日 23時) (レス) id: 9398c4b575 (このIDを非表示/違反報告)
藍原春陽(プロフ) - 全部の話がきらきらしていてとても好きです。ひとつだけ、本文中で凪砂が凪紗になっていることが気になりました。できれば訂正お願いします。これからも頑張ってください。 (2020年11月28日 0時) (レス) id: b2c9d88620 (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - のんさん» ありがとうございます！嬉しいです (2020年8月15日 12時) (レス) id: 3919641d26 (このIDを非表示/違反報告)
のん - 応援してます (2020年5月30日 1時) (レス) id: b1f19877ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：素敵帽子 | 作成日時：2019年8月18日 12時
