一度きりと思うほど ページ28
｢ここに来たこと間違いだと思ってる？｣
ホテルの一室、ベッドに座る彼女におそるおそる問いかける。
彼女は俺を真っ直ぐ見つめ首を横に振った。
｢ううん、後悔なんてないよ。｣
彼女には恋人がいるし、相手のこともよく知っている。
一方俺も学生時代からずっと彼女に想いを寄せていた。結局お互い同じ道を歩むことはなかったけれど。
｢……同情？｣
｢そんなことない。私も宏介のこと好きだから。｣
でも、と彼女は続ける。
｢私と宏介は一緒には居られないんだよ。
……宏介も分かってるでしょ？｣
普通なら死ぬほど嬉しいはずのこの空間も、息をする度に心臓がヒリヒリするほど痛む。
｢今日だけ、宏介と一緒にいる。｣
多分これ以上彼女の話を聞いても、俺が喋ってもどんどん悲しくなるだけ。
彼女をゆっくり押し倒して、唇を重ねる。
どんなに望んだ瞬間だろう。
彼女の手を握ると同じ強さで握り返してくれる。こんな幸せはもうないんじゃないかと錯覚するくらいに。
唇に舌を這わせると抵抗なく開き、受け入れてくれる。
あ、甘い。
彼女の甘い香りが呼吸をする度に深く入り込んできて、頭がクラクラする。
このまま最後までしてしまえば彼女は俺のものになるんじゃないか。
毎日俺の事を思い出して、悩んでくれるんじゃないか。意地の悪い感情がふつふつ沸き上がる。
こんな機会もう二度とないだろう。ゆっくりしたキスとは裏腹に心はどんどん焦っていく。
強く彼女を刻み込まなければ。もう二度と忘れないように。
でも、これ以上は
｢ごめん、だめだ。
これ以上出来ない。｣
彼女から離れ、思わずそう呟いた。
｢……うん、だと思った。｣
好きだけど。俺のものになって欲しいけど。
忘れられないように刻み付けたいけど。
これ以上彼女に触れることが出来ない。
｢宏介、せめてもう少しだけ一緒にいよう。
手繋いでもいいし、抱きしめてもいいから。｣
掠れるような声で話す彼女を抱きしめてベッドに倒れ込んだ。
夜が明ける前に彼女は｢帰るね｣と一言呟いた。
この部屋を出たら明日からはまた俺と彼女は【友達】。
ドアの前でなにか言いかけたような気がしたけど、いつも通りの笑顔でバイバイ、と呟いて部屋を出ていった。
まだ彼女の匂いが残っているシーツに顔を埋めると、抱きしめた感覚が蘇る。
｢はは……っ、1回でいいからAを台無しにしてみたかった、な。｣
【一度きり思うほど】
Fantome最高でした。
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裕(プロフ) - 夕凪さん» コメントありがとうございます。とても嬉しいお言葉に励まされました。夕凪様の小説も読ませて頂きたいと思います。そして続編、少しずつですが書いていこうと思いますのでまたよろしくお願いします。 (2020年4月8日 18時) (
レス) id: af8940d8bd (このIDを非表示/違反報告)
夕凪(プロフ) - はじめまして、こんにちは。小説通して、とても楽しませて頂きました。わたしも勝手ながら夢小説を書いているのですが、情景・心理描写など参考になる部分が多々ありました。ひとときの夢をありがとうございます。もし可能でしたら…続きを楽しみにしています。 (2020年4月8日 14時) (レス) id: e6f9b067c6 (このIDを非表示/違反報告)
裕(プロフ) - 零さん» コメントありがとうございます！私の中の斎藤さんイメージで書いているので自身は楽しく書かせていただいております。楽しんで頂けてとても嬉しいです。これからも頑張ります！ (2020年4月2日 20時) (レス) id: af8940d8bd (このIDを非表示/違反報告)
零(プロフ) - 第一話から拝見させて頂いてます。色っぽくてドキドキする展開にいつもときめいており、更新されてるとわくわくしながら読んでいる自分がいます。これからも応援させて頂きます、頑張ってください！ (2020年4月2日 19時) (レス) id: e30a93ed77 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：裕 悠 | 作成日時：2020年3月27日 11時
