甘い一瞬に騙されて

アルコール・トラップ ページ15

突如震え出すスマホに映し出されたのは愛しい彼の名前。
今日は打ち上げのはずなのにどうしたんだろう？と応答ボタンを押して出る

ー.あっ、Aさんですか？

明らかに彼では無い声と、疑問形の語尾。宏介さんよりだいぶ低い声だなぁ。
｢はい、そうですが……。｣
ー.どうも、鈴木です。お久しぶりです。
ー.実はちょっとお願いがあってお電話しまして……

鈴木さんはとても丁寧な口調で話し始める。何回か会ったことあるけど、こんなに丁寧な喋り方してたっけな？





｢あ、Aさんごめんね。急に呼び出したりして。｣
鈴木さんに呼び出された場所に急いで向かうといつも通りの話し方の鈴木さんが待っていてくれた。

｢それは大丈夫です！あの……宏介さんは？｣
こっちこっち、と手招きされてお店の中に入ると大勢で宴会をしている個室に案内された。

扉を開けてすぐそばには田淵さんが座っていて目が合うと｢あ、こんばんわ。｣と呟いてすぐに宏介さんの方を向いた。

｢斎藤くん、あそこ。｣

田淵さんの視線の先を見ると顔を真っ赤にした宏介さんが見たことないほど緩んだ顔で笑っていた。

｢べろっべろでしょ？さっきまでちょっと寝てたし。そんなに飲んでるわけじゃないと思うんだけどなぁ。｣
｢今日のライブ、良かったのよ。宏介も大満足しててよっぽど嬉しかったんだろうね。｣

田淵さんが立ち上がって宏介さんの方に向かっていく。

｢体調悪いわけじゃないんですよね？｣
｢うん、めちゃくちゃ良かったと思う。｣

よかった、いつもお酒を飲んでもそこまで酔わない宏介さんだから体調悪かったんじゃないか、と心配していた。

田淵さんに連れられて笑顔で緩みきった顔の宏介さんが近くまで歩いてくる。
まだ私に気づいてない様子だ。

｢たかおー、どうしたの？｣
鈴木さんの肩を掴んでふふっと、笑う宏介さん。
｢こ、うすけ。｣と振り絞るように呟く鈴木さんはきっとこの宏介さんを見て可愛いって思っちゃったんだろうな。
分かる、今日の宏介さん凄く可愛い。

｢って、、あれ？Aちゃん？｣
田淵さんと鈴木さんの間にひょっこり顔を出している私にようやく気づいたようだ。目を大きく開いて驚いているのが分かる。

｢俺が宏介のスマホ借りて呼んだの。
宏介、今日は帰りな。Aさんよろしくね。｣
｢斎藤くん、彼女さんに迷惑かけるんじゃないよ。｣

少々｢えー。｣駄々をこねたものの私の手を掴んで｢お疲れ様でした｣、と伝えると大人しくお店を出た。

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