3 ページ14
.
駅にゆっくり滑り込み、扉が開いた。
快速に乗り換えるために俺はここで降りる。
一歩踏み出すと、ドアの隅で手摺に掴まっていたAさんもフワッと車両から降りた。
(ここで降りるのか……)
横目で彼女の姿を見ながら、向かいの乗り場に移動すると彼女もついてきた。
一瞬何で俺に付いてきたんだと思ったけれど、
(あ、乗り換えか)
冷静にならなくてもその可能性の方が確実だ。
自分の自意識過剰さにこれまた心の中で苦笑いした気分になる。
やがて滑り込んできた快速に乗り込み、俺は長椅子に腰かけ、彼女は扉の近くに立つ。
視線を合わせるでもなく、俺が下車する時に通り過ぎざまにまた頭を下げられただけで、会話を交わすことはなかった。
家までの暗い道のりを足早に進み、幾つ目かの街灯の下を通過した頃、ふと思い出したAさんの姿。
知らなかった、いつも一緒の時間に乗り合わせてたなんて。違う車両に乗ってて今まで気づかなかっただけかもな。
彼女とは会社で会っていて、就業時間も変わらないのに今まで駅舎内で見かけたことがなかった。まあ、あの人でごった返すホームでこれまで接点のなかった彼女と出会おうなんて、考えもしなかったから気づかないほうが当たり前だ。
てことは、快速で帰ってるとすれば、あの先で停まる駅は……。
ハッとなった。
何で彼女の最寄り駅を探るようなことを。
馬鹿馬鹿しい。知ったところでどうするつもりだったんだよ。
払うように頭を振って帰路に就いた。
帰宅して部屋の明かりを点けスーツを脱ぎ、ダイニングチェアの背凭れに鞄と一緒に乱雑にかけた。
ソファーベッドに腰を下ろしながらネクタイを緩め、完全に身を預けると漏れた溜め息。
そしてまた思い出す彼女の事。
よろけた彼女が俺を見上げる瞳、「すみません」と動かした唇。
触れた肩の細さ、引き寄せた時の軽さ。
申し訳なさそうにお辞儀した時の赤い耳。
……ん？赤い耳？
「え、もしかして照れたとか……？」
かぁっと顔が熱くなるのを感じる。自分の鋭すぎる観察眼と独り言の多さに羞じらいが込み上げ、誤魔化すようにネクタイを引き抜いた。
「俺、キモっ！」
そんなところまで見てたなんて。
「シャワー浴びよ……」
立ち上がり様にネクタイを無造作に放り、頭をがしがしっと掻いてバスルームに逃げた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 159人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あがしおん(プロフ) - miyaさん» いつもコメントありがとうございます！ジンくんはほんわかあったかい感じがよく似合いますよね！気に入っていただけてよかったです！ (2019年12月7日 14時) (
レス) id: 97c4c54377 (このIDを非表示/違反報告)
miya(プロフ) - 大好きなジンくんのお話ありがとうございます(≧▽≦)そうこのゆったりとした空気感が大好きなんです！寒くても、ジンくんの周りは温かいですね( 〃▽〃) (2019年12月7日 13時) (レス) id: 6284949262 (このIDを非表示/違反報告)
あがしおん(プロフ) - miyaさん» 私も国語の授業は漫画本隠し読みしてた類の人間ですよ！でも、お気に召していただけて何よりです〜♪ (2019年10月14日 1時) (レス) id: d4473d8198 (このIDを非表示/違反報告)
miya(プロフ) - あがしおんさんの愛情いっぱいの言葉、大好きです(T△T)あぁ、本当に国語の授業寝ていた自分が恨めしい。。。。 (2019年10月14日 0時) (レス) id: 6284949262 (このIDを非表示/違反報告)
あがしおん(プロフ) - miyaさん» miyaさん、コメントありがとうございます。作者も泣いております。近頃は涙腺がユルユルで……。 (2019年10月14日 0時) (レス) id: d4473d8198 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あがしおん
| 作成日時：2019年8月22日 8時
