ⅻ ページ12
──────……
平凡な生活を送ろうとも、事件に巻き込まれようとも、変わらず平等に時間は過ぎ…朝はやってくる。
カーテンの隙間から差し込む光が顔を照らすと、Aはゆっくりと目を開けた。
「……ん……ぅ………………朝……?」
のそりと身体を起こすと、何かに足を引っ張られる感覚に陥った。
正体は足枷とテーブルを繋ぐ鎖だ。
寝ている隙にリビングから逃げないように、昨晩影汰に繋がれたのだった。
「鎖、短い……余計不自由じゃん」
あの後、Aは影汰に誘拐自体も本当の愛ではないと説得を試みた。
しかしどれだけ話しても、彼に解放することだけは絶対にしないと断言されてしまい、全く説得が通じないまま鎖を繋げられて、おやすみと部屋に戻られてしまった。
Aはどうしたものかと考えながら、寝ぼけ眼の目を擦る。
「げ、マスカラ取れた……。うわぁ…最悪、メイク落とさず寝ちゃったのか……そりゃそうかぁ……」
憂鬱な気分になり、Aは膝を抱えてうずくまる。
その時、ふと目に映った壁の時計を彼女はぼーっと見つめだした。
「9時…もう出勤時間じゃん。職場も急に私が来なくなったら困るよね。迷惑かけちゃうなぁ……」
「誘拐されてるのに職場の心配なんて……君って案外社畜?」
「ああ、お兄さん。いたの」
いつの間にか背後に立っていた影汰に大して驚きもせず、Aはチラリと一瞥だけした。
「おはよう、A。一晩経っても、君は相変わらず冷静だね」
「むしろ一晩経ったから余計に冷静なんじゃない?」
「…なるほど、そういうもんかァ。……あ、トイレは?」
「行きたい」
Aは昨日と同じ方式でトイレに連れて行ってもらう。
一応チラリと小窓から外は見たが、相変わらず希望の薄そうな景色でそのまま外へと出る。
ドアを開けると再び影汰に捕まり足枷を付けられると思ったが、彼は何故か手を繋ぎ、彼女を何処かへ連行しだした。
「?…なに、どこ行くの」
「お風呂場。シャワー浴びたいかと思って」
その言葉を聞き、Aは少し目を輝かせる。
思ってもいなかった!まさかシャワーが許されるなんて!
だが風呂場に着いた瞬間、彼女はハッとする。
「ま、待って…!まさか一緒に入るとは言わないよね?」
「え?」
影汰は、当然一緒に入るつもりだったと言わんばかりの表情をした。
29人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さく - すごい面白いです!!!! 更新頑張ってくださいね、ずっと待っていますから (2022年1月19日 18時) (レス) @page23 id: dc6ef9e765 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作成日時:2021年11月24日 17時