５５願いの対価 ページ15
誰もいなくなったように静まる本丸に、鯰尾とAが佇んでいた。
隣にいる鯰尾に何を言えばいいのかわからない。小夜のことやこの本丸のこと、言いたいことはたくさんあるのに、言葉にはならなかった。きっとついさっき見たものがあまりにも酷く、悲しいものだったからだろう。
｢先に言っておきますけど｣
重い静寂を破ったのは鯰尾だ。唐突だったためすぐに反応出来ず、ただ振り向いた。重なった鯰尾の瞳は一期のような、淀んだ色を映していた。
｢俺はもう手遅れですから｣
何の感情も持たない声色に、一瞬何を言っているのかわからなかった。どういう意味だろうとぼんやり考えていると、鯰尾が答えた。
｢俺達が斬るべき異形の敵……歴史修正主義者。俺はそれになりかけてます。鯰尾藤四郎として、もう目覚めることはありません｣
鯰尾からの告白に、それ程衝撃は受けなかった。そんな気がしていたからだ。
池から引き上げたあの時、彼の身体は異形のものへと変化を始めていた。きっとあのままにしておけば歴史修正主義者に成り果てるのであろう。そして歴史を変えるため、かつて仲間であったものたちを斬る。そしてそれが鯰尾にとって一番したくないことだということもわかっていた。だけど、彼には変えたい過去があるのだ。彼の記憶がそれだった。
なんて優しくて残酷なのだろう。
｢……鯰尾藤四郎としては｣
もう一度繰り返した言葉がAの胸を締め付ける。きっと彼はまだ鯰尾藤四郎として生きたかった筈なのだから。
｢だから、そうなる前に刀解してください。誰も傷つけたくないんです｣
縋るような鯰尾の目を見た。骨喰とよく似た目だと気付き、嫌だ、とは言えなかった。
｢貴方は……それでいいんですか？｣
泣きそうな彼を見ればそんなこと聞かなくてもわかる。だけど聞かずにはいられない。どうにかして助けられる方法はないのかと、考えずにはいられない。
鯰尾は淀んだ瞳を潤ませ、涙を零した。ひどい既視感に、また胸を締め付けられる。
｢いいわけ、ない。でも、俺はもう、戻れない……一度でも強く願ってしまえば終わりなんです……俺は、願ってしまった｣
誰も傷ついたりしない、いなくならない、幸せな日常を。
優しい願いが彼を異形のものへと変えてしまう。仲間を思うばかりに、彼は闇に堕ちてしまう。鯰尾藤四郎が、死んでしまう。
｢……骨喰にちゃんと謝りたかったなぁ｣
力なく笑う鯰尾が、消えかかっていることに気づいた。
ああ、もう時間が。
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アニメラブ(プロフ) - 小夜！！！！ 帰ってきてー (2017年9月22日 9時) (
レス) id: a0166d0c90 (このIDを非表示/違反報告)
和(プロフ) - 華骸さん» ありがとうございますヽ(*´∀｀)ノ (2016年8月2日 18時) (レス) id: 92460ae46a (このIDを非表示/違反報告)
華骸(プロフ) - 和さん» 罪人の首を刎ねよの方も見てくださってありがとうございます！ 励まされたなんて私はそんな大層なことは書いてないですよ(笑)本当の事を書いただけです！ これからも読みに来ます(。・ω・。)ゞ (2016年8月1日 22時) (レス) id: 31ae3f7e34 (このIDを非表示/違反報告)
和(プロフ) - 華骸さん» わっわっ、コメントありがとうございます(*^^*)前回の華骸さんのコメントにもすごく励まされ、続編まで……！華骸さんの"罪人の首を〜"のお話毎回楽しみにしております(^-^)続編もおめでとうございます！ (2016年8月1日 8時) (レス) id: 92460ae46a (このIDを非表示/違反報告)
華骸(プロフ) - 続編おめでとうございます！ 楽しみにしていました！ これからどういう展開になっていくのが読めない感じがいいですね！ ワクワクします！ 更新楽しみにしてますね(*´ω｀*) (2016年8月1日 1時) (レス) id: 31ae3f7e34 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：和 | 作成日時：2016年8月1日 0時
